戦略的コミュニケーションがご専門で、グローバル人材コンサルタントでもある高杉尚孝・筑波大客員教授への「グローバル人材」に関するインタビューの第3回。
前回は、MBAプログラムの必要性について伺いました。経営者は、経営の全体感を持つ事が重要。MBAは必須ではないが、短期間で全体感を身につけることができるのがMBAとのことでした。
今回は、本題の「グローバル人材」です。なぜ今グローバル人材が求められるのか伺いました。
<聞き手:Kisobi 浦部洋一>
- ※前回までのインタビュー
- 「高杉尚孝・筑波大客員教授にグローバル人材について聞く」
- (1)日本人は説得のためのコミュニケーションが苦手
- (2)グローバルリーダーにMBAは必要か
- 高杉尚孝(筑波大学大学院客員教授、高杉尚孝事務所代表)
- <略歴>
- 慶応大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートン経営大学院MBA。NHK ETV「英語ビジネスワールド」元講師。マッキンゼーやJPモルガンのニューヨーク事務所勤務を経て独立。大手企業幹部向け研修を、成長意欲の高いビジネスパーソンに公開している。
──ようやく本題にたどり着きました。最近、日本全体で「グローバル人材」という言葉をよく耳にしますが、なぜそうなってきたのでしょうか?
ただその定義は人それぞれのように聞こえます。高杉さんは、「グローバル人材」について、どのように考えていますか?
高杉:まず、今なぜグローバル人材なのかですが、それはクローバル人材のニーズが顕在化した流れがあるためと思います。
欧州や北米に海外展開を進めて来た今までの一般的な企業を想定した場合、日本企業の持つ製品の特徴を考えると、現地での市場をいちから開拓していくような販売を必要としなかった。すでに存在しているマーケットに参入したので、市場自体を作り出す必要はあまりなかったと言えます。
また、製品としても、売り切りタイプでその後のケアーをあまり必要としない製品が多かったんじゃないかと思います。製品の仕様も国内製品と極端に変える必要もなかった。
もちろん一番最初は、たとえばソニーがアメリカに出て行ったときには、認知度が全然ないので、ドブ板的な営業もあったのでしょうが、売り切りで、商品さえよければ、それを認知してもらえれば、すでにマーケットはあった、という所でずっと海外展開してきたんじゃないでしょうか。
欧米のような比較的成熟した市場で主に戦ってきた…
それなりに製品認知度が上がって、しっかりしたローカルのパートナーと協力体制が組めれば、それほど多く日本人の国際的なスタッフがいなくて済んだ、という時代が長く続いた。その後、欧州や米州市場では、自前の販売体制も構築するに至ったわけですけど。
つまり、日本企業で外に目を向けていた会社も、欧米の成熟したマーケットを想定していたので、品質の高い製品をつくればそれで売れた。ローカルでアフターケアーを必要としない、売り切りの製品が多かった。
他方、白物家電などは輸出しづらいですね。冷蔵庫や洗濯機などは取り付け設置もしなくてはならない。仕様も大幅に変更しないとだめ。テレビやカメラは技術的なスペックさえ合っていれば、その後のメンテナンスは少ないでしょう。車はある程度、メンテナンスが必要ですが、メンテナンスをやってくれる現地のサービスと提携すればよかった。
もちろん、そのあと、国際化の段階としては、自分のサービス網を持つとかの展開はしてきていますが、基本的にそれほど、マーケットを開拓する必要がなかったという時代が続いたんじゃないかと思います。
──売るための日本人スタッフが必要なかったということでしょうか。
高杉:もちろんまったく必要なかったわけではないでしょうが、売るためのスタッフというのは、店頭販売スタッフもいますが、それ以前に、どうやって現地の市場を開拓して行くか、国内製品の仕様とは大きく異なる製品を開発するというマーケティングの前工程をやってくれる人を必要としなかったということです。
あともう一つは、日本国内のマーケットが結構大きかったので、特に内需型の日本企業は外に目を向ける必要がなかった。
欧州などは、規模として、最初から自国以外のマーケットを想定せざるを得ない。米国は、合衆国で50の国がくっついているようなものなので、それ自体がインターナショナルなマーケット。
そうこうしているうちに、冷戦が崩壊、バブル経済も崩壊、日本市場の成長も鈍化してきた。日本が内向きになっている間に、中国や他の新興国が新たな市場とて台頭しはじめた。新興国には、製造拠点としては長い付き合いのある地域もあったが、マーケットとしては目を向けていなかった。そのため新興国は手薄になった。
そこに、欧米の競合他社や韓国企業がそれなりに攻めていったところで、急激に購買力をつけてきた現地の中間層の需要を取り始めた。はっと気がついたら日本企業は手薄になっていた。
今「グローバル人材」といえば、新興国のマーケットをどうやって開拓して行くのか、という業務を念頭においていると思うんですね。
新興国は、欧米と違い、マーケットとして発展途上です。
あと、そこで売れる商品自体も持ち合わせていない。多くの場合、過剰スペックになっていて、そんなスペック要らない、もっとシンプルな製品で構わないので安くしてほしい、と。
今までの、特に日本の製造業の強みを活かせないマーケットになってきているわけで、そこで成長していかなければならない、となると、新しい人材がいる。そういう流れで、たぶん今、グローバル人材が必要と言われているのだろう、と思います。
同時に、欧米市場では、M&Aによって、日系企業が現地企業を傘下に抱えるケースも増えてきました。海外の子会社を経営できるような人材も多く求められるようになりました。
──もともと新興国で工場として協力関係があって、日本企業から派遣されて、現地に何十年と住んでいる人も結構いたと思いますが、ほぼ作る側の人です。今度は、売る側の人がいるという話でしょうか。
高杉:1つはそうですね。今までとは違った機能を展開しなくてはならない。作るだけでなく、売って行くための人材も必要ということですね。
あとは、子会社全体をマネージしていなければならない。製造のほうは無くならないし、それに販売のほうの機能も付けていなかければならない。その両方を管理できる経営レベルの人材も必要になってきます。
製造のほうはよく知っているけれども、販売のほうはよく分からないというのでは、話にならない。先ほどのMBAの話になりますね。
ローカルマーケットに打って出て行くために、子会社全体をマネージできる人材を育成しなければならなくなっています。もちろん、そういう人材がローカルにいれば、雇えばいいのだけれども、そういう人材は少ない。雇ったとしても、それをうまくマネージしていく日本人は必要で、そういう人材がいない…ということになります。
製造のエキスパートはいたとしても、その人達は欧米・日本向けの高スペック製品を作ってきたわけで、ローカルのニーズに合ったものを作れるかというと、必ずしもそうではないでしょう。
ものすごく品質の高いものを作っていた人に、もういいんだ、品質を下げてもよいから、安いものを作ってほしいと言うのはすごく難しい。
価値観の転換が必要ですね。
(次回に続きます)
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