Kisobiの共同ファウンダーであり、筑波大学大学院で客員教授をされている、グローバル人材コンサルタントの高杉尚孝氏への「グローバル人材」に関するインタビューの第2回。
前回は、高杉氏のご専門である「戦略的コミュニケーション」(説得のためのコミュニケーション)について伺いました。おそらく、日本のビジネスパーソンの一番苦手な分野の一つではないか、ということでした。
ビジネスパーソンがビジネスについて学ぶ場合、大学のビジネススクール(MBA)が一つの候補にあがります。
今回は、高杉氏が教鞭をとられている筑波大学のMBAプログラムや、MBAの重要性について伺いました。
<聞き手:Kisobi 浦部洋一>
- ※前回までのインタビュー
- 「高杉尚孝・筑波大客員教授にグローバル人材について聞く」
- (1)日本人は説得のためのコミュニケーションが苦手
- 高杉尚孝(筑波大学大学院客員教授、高杉尚孝事務所代表)
- <略歴>
- 慶応大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートン経営大学院MBA。NHK ETV「英語ビジネスワールド」元講師。マッキンゼーやJPモルガンのニューヨーク事務所勤務を経て独立。大手企業幹部向け研修を、成長意欲の高いビジネスパーソンに公開している。
──高杉さんが客員教授をされている筑波大学大学院MBAについて聞かせてください。どこの学部に属するのですか。
高杉:学部は大きな括りでいうと、ビジネス科学専攻。その中がいくつかに分かれていて、その1つである国際経営専攻 International Business MBA で教えています。
これは2005年にできた全部英語で学ぶ社会人向けのビジネススクール(修士)です。
3割くらいが非日本人で、男女比半々。1学年30数名です。
年齢的には30代が多いですが、まれにリタイアした方もいます。それほど若い人は多くなく、若くても20代後半。一番多いのは、30代半ばです。
──高杉さんのご専門は、(ビジネススクールで学ぶ)経営学よりも、心理学・人間科学に近く見えますが、そうなのでしょうか。
高杉:そうですね。自分の興味も含めてそちらのほうです。マネージャーとして、人間としての資質のほうに個人的に興味があるし、学習するという観点からはそちらのほうが大事だと思っています。
ビジネススクールでとる科目は、学位を取ってしまえば、中身は8割ぐらい忘れてしまう。卒業してから、業務上、専門分野を追求するのであれば、もっと自分で掘り下げなければならない。かといって、学んだ事を一気に全部応用するのでもないし、使わないとほとんど忘れてしまう。
その中で必ず使う大事なものが、「戦略的コミュニケーション」だと思います。
それをどうやって使うのか。自分自身のストレス管理、周りを育成するためのコーチング、交渉ごと、すくなくとも私の考える大事な事を中心にお話しています。
MBAの必要性、重要性にも関わってくる話ですが、学位をとるという観点では、MBAは重要。特にグローバルで見たときには大事です。
内容的には、経営の全体感を持つ、という意味では大事。マーケティング、ファインナンス、オペレーション、分析的な手法、人事について学ぶなど、経営全体の感覚を身につけるという点では重要です。
ただ、1、2年やったからといって、すべての分野でエキスパートになれる訳でもないし、卒業すればすぐに忘れてしまうし… やらないよりは、やったほうがいいが、やったからといって起業できるわけではないし。
知的トレーニングとしての効果はあるでしょうね。MBAに限りませんが、短期間で、難しい課題に対してグループ作業でアウトプットを出す、という知的トレーニング。
あと、同じ釜の飯を食った、というネットワーキング。
内容としては、経営の一部しか学べないですが、そういう面のプラス効果はあると思います。
──会社の経営にはMBA的要素は必要かもしれませんが、実際にビジネススクールに行っている人は少ないと思います。企業の経営を担う人材は、MBAに行った方がいいと思いますか。
高杉:認知されている学位として持っているのは有益ですが、持っているから優秀な経営者になれる訳ではありません。
ご存知故スティーブ・ジョブス氏はMBAどころか学部を中退してます。
ただ、経営の全体感を持てるので、自分では全部できなくても、会社全体としてどういう機能をもっていなければならないか、人に任せる上で、どんなことに注意しなくてはならないか、が分かるというメリットはあります。
経営者は、ある分野には長けているけれども、他の所はよく分からない、ということがあります。分からないからどうでもよい、では困ります。
例えば、自分はファイナンスは分からないけれども、それは大事だ、ということは学んでもらいたいですね。そのエッセンスが何なのか分かった上で他の人に任せる、という視点は大切です。
MBAは必須ではないが、経営で大切なのは全体感を持つ事です。企業を全体的に理解している事。特定の技術は意識しているが、資金調達には意識が低いというのは、まずい。
それを短期で習得できるのがMBA。もちろん、MBAでなくても、もっと短期で習得できるものもあります。
──欧米のグローバル企業では、経営陣はかなりの割合でMBAをもっているのでしょうか。
高杉:そう思います。入社の段階で高学歴の方が多いです。ある特定分野、例えば機械工学で修士号を持っているとか。自分の専門分野でも高等教育を受けていて、プラス、大企業で幹部クラスになりたい、という人はMBAを持っていますね。
その後、企業自体もグローバルな人材をどうやって育てるか、という視点で、海外業務をローテーションさせながら経験をさせます。そこで実務の経験を積むのですが、その前工程として、MBAがあります。
──日本企業では、MBAが採用の条件にはなっていないと思いますし、2年かけて行くというのは、なかなか難しいと思います。欧米のビジネスパーソンの場合は、どうやって負担をマネージしているのでしょうか。
高杉:すごく優秀であれば、奨学金を獲得できますが、とれない場合も多いので、大きな負担です。親から借りたり、配偶者の収入に頼ったり、ローン組んだりで、苦学生ですね…
それなりの企業に入ったり、幹部候補生になったりすれば、それなりの見返りがある、ことが前提になっています。
日本の場合、国内において、一般的な企業を想定した場合、資格としてそれほど必要ではないと思います。また、年功序列的なのもの残っているので、2年間キャリアが中断されるというのはマイナスということもあるでしょう。
ただ今は、筑波大をはじめ、社会人向けのプログラムも増えているので、キャリアを中断しなくてもよい道もあります。
あとは、どんな組織に属するかにもよります。外資系では持っていたほうがよいでしょう。外資系でなくても対外的な仕事をする上では、共通言語を持つ、共通の仲間意識を持つ、という観点ではMBAは良いでしょう。
ある程度の会社でマネージャー職を目指すのであれば、当然という意識を周りが持つでしょうね。
(次回に続きます)
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