昨日、米アマゾン・ドット・コムが、日本でもこれまでより一回り画面サイズの大きい「キンドル・ファイアHD」の予約発売を開始した。ますますタブレット戦争が激化しそうな雰囲気である。
先日、米アマゾン・ドット・コムの海外国別売上高がはじめて公表され、2012年12月期の日本での売上高が約7300億円だった、とのニュースが流れた。
日本の大手百貨店の売上高に肩を並べる規模である。もう、外国企業と意識する事もないくらい、私たちの日常生活に深く浸透してきていると言えるだろう。
ちなみに、同期間のアマゾンの総売上高は610億9300万ドル、海外売上高は262億8000万ドルとのこと。しかも売上高は2桁成長を続けている。日本の売上は、米国以外ではドイツに次いで2番目に多いらしい。
(参照記事:ASCII.jp 2013年2月20日)
では、アマゾンの何がそんなに強いのか?
企業としての分析は、すでに多くの書籍や記事で書かれているので、改めて採り上げないが、個人的な体験も含め、利用者の観点から見てみたい。よく言われているのは次のような点である。
1.品揃えが豊富である
- アマゾンならたいていの書籍は取り扱っている
2.届くのが早い
- 予想以上に早く届いたりする
3.安い
- 日本の書籍の場合、再販制度のために価格差はないが、例えば送料無料などで割安感がある
4.買い物がしやすい
- レコメンドやワンクリックで買い物できるなど
5.先進的なイメージ
- Kindleの電子書籍など
このようなサービスにより、移り気な利用者をしっかりリピーターとしてつなぎ留めている。
これらは、配送センターやWebサイトなどのITの仕組みなどが支えていることは間違いないであろうが、実はもっと人間的な側面もアマゾンの強さを支えているのである。
アマゾンのサービスは、人々の感情にアピールしている
先日、企業の評判に関する興味深い調査結果が米Harris Interactive社から発表された。
ワイアードの記事「アマゾンはなぜそこまで好かれるのか:「評判調査」結果」で解説されているので、その内容を見てみたい。
- ※レポートの内容はこちらHarris社の「2013年 評判指数(RQ)調査」レポートサマリー(PDF)
Harris社が、毎年行っている「評判指数(RQ)調査」で、2013年はアマゾンがトップとなった。
2013年のトップ5は、
1.Amazon
2.Apple
3.Walt Disney
4.Google
5.Johnson&Johnson
この調査は、米国の有名企業60社の評判やイメージについてアンケートした結果を指数化しまとめたものである。
以下の6つの指標で評価を行っている。
Products & Services
Financial Performance
Workplace Environment
Social Responsibility
Vision & Leadership
Emotional Appeal
2013年の結果では、アマゾンは、6項目の内、Social Responsibilityを除く5項目で、トップ5の評価を得ている。
トップ5にはIT企業が多いが、IT企業だから評価が高い訳ではないらしい、マイクロソフトやフェイスブックのランクは低い。
評価指数の中でも、「感情へのアピール(Emotional Appeal)」項目では、2位のディズニーに大差をつけての1位である。
ワイアードの記事によると、
“われわれ消費者の大半とアマゾンとの接点が段ボール箱だけしかないことを考えると、この結果は少々不思議な感じがする。”
“Harris社の定義によると「感情へのアピール」とは、小包が届いたときに涙を流すかどうかということではない。信頼感、賞賛、リスペクトを意味している。”
この「感情へのアピール」に関しては、アマゾン以外のトップ5には、他の項目では高い評価を得ているAppleやGoogleなどIT企業は入っていない。
個人的には、Appleの製品やサービスも十分感情にアピールしていると思うが、対象顧客が限られるのでこのような評価なのかもしれない。
(アマゾンはIT企業か?という問いもあるとは思うが、Webを通じたサービスを提供しているという点では、IT関連企業と言えるだろう)
愛される会社アマゾン
この調査結果を見て思い出すのが、私自身が米カリフォルニアに住んでいた時の体験である。
もう10年以上前の話である。当時からAmazonは便利なサービスとして評判は良かったが、会社としては赤字続きで、ドットコムバブルを謳歌している米国でも、本当に大丈夫なのか?と疑問を持たれ続けていた。
そのような中、私の周りの米国人達が口を揃えて、
「もし、アマゾンが潰れそうになったら、自分がお金を出して、アマゾンを支えるよ」
と言っていたのが印象的だった。
それくらい、アマゾンという会社は、米国人に「愛されて」いたのである。
では、なぜ、愛されるのかというと、便利なサービスというだけでなく、心憎い人間的なサービスに、その源泉があると思っている。
実際に、自分の体験としても、
・複数同時に注文した書籍を一度に届けられない場合、在庫のあるものを先に送ってくれた。もちろん追加送料は不要。
・さらに、配送が遅れたお詫びの意味か、ささやかなギフト(何か忘れたがカードみたいなもの)が一緒に入っていた。
・クリスマスのような時期に注文すると、ちょっとしたギフトが同梱されていた。
など、あの素っ気ない段ボールを開けた時に、ちょっとした喜びを感じた記憶がある。
昔の話なので、正確ではないかもしれないし、現在はどうか分からないが、当時、そのような感動を得たことだけはしっかりと覚えている。
Harris社の定義では、「「感情へのアピール」とは、小包が届いたときに涙を流すかどうかということではない」ということらしいので、はっきりとは分からないが、信頼感、賞賛、リスペクトの背景には、サービスへの感動があると思う。
日本は、全般にサービスのレベルが高いので、アマゾンのサービスを特別に感じることは少ないかもしれないが、それでも、ネット通販は機械的と思う人が多い中で、人の温もりを感じられるような工夫を考えているアマゾンには頭が下がる。
もちろん、そのサービスは完全ではないし、不満に思う人もいると思う。
ただ、評判指数の調査結果や、全世界で2桁成長を続けているのも、根底にはジェフ・ベゾスCEOが掲げる「顧客中心主義」、そして顧客サービスやコミュニケーションを弛まなく改善していく姿勢があるからだと思う。素直に見習いたい。
(参考:日経ビジネス2012年5月1日:
「顧客中心」と言い張る企業の“嘘”を教えよう 米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOインタビュー)
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