2013年7月末、松井秀喜選手がヤンキースと一日限定のマイナー契約を結び、ニューヨークのヤンキースタジアムで引退式に臨んだ。
引退した野球選手は、最後に所属したチーム名で紹介されるとのこと。
複数のチームで活躍した松井選手もこれで「元ヤンキースの松井秀喜」となる。
その、元ヤンキースの松井秀喜、(厳密には当日は現役だったわけだが)引退式で「球場に入った瞬間から泣きそうだった。ファンの歓声に心を打たれた」との報道だった。
自ら「泣きそうだった」と、ともすると感情的なもろさと解釈される心境を、スーパースターがオープンに打ち明けている。
別の記事でも書いたが、私は松井選手の思考や姿勢に多くを学んでいる。この、自分の感情を素直に受入れる態度もその一つだ。
だいぶ前に、松井選手とスポーツ記者とのこんなやりとりがあった。
記者:松井さん、緊張した時どうしてます?
松井:緊張したときですか。緊張したままプレーしてます。
緊張しているのに、
「私は緊張などしていない!」
と現実を否定しても、緊張はほぐれない。
ましてや、緊張は弱い人間の証だからして、
「私は絶対に緊張してはならない」、
「絶対にリラックスしなければならない」、
などと無理な要求を突きつけるのも逆効果だ。
そんなことをすると、
「絶対にしてはならないことをしている」、
「絶対にしなくてはならないことをしていない」、
という大きな矛盾をみずから造り出すことになる。
結果、ますます緊張が高まる。
松井選手はそのようなおろかなまねをしない。
彼は、緊張したときは、緊張したままプレーするのだ。
もちろん、緊張しない方がよい。リラックスできているほうが当然よい。
深呼吸をしたり、ストレッチ体操をしたりするのもよいだろう。
しかし、事実、自分は緊張しているのだから、それを認め、受入れる。
残念だが、緊張したままプレーするしかないのだ。
逆説的だが、緊張している自分を受け入れると、緊張がほぐれる。
松井選手は、それを体得しているのだ。
確かに、
「緊張したときは、緊張したままプレーしてます」
は一見、肩すかしにも聞こえる。
しかし、これもとても松井選手的な良い思考だ。
自分が緊張している事実を受入れている、「受容思考」だ。
不完全な自分を受け入れる。簡単そうで、案外むずかしい。
私のような凡人は、プレッシャー状況ですぐに、
「舞い上がってはならない」
「平常心をたもたねばならない」
と、高ぶる感情を否定したり、押し殺そうとしたりしてしまう。
松井選手は、不完全な自分を受入れることで平常心を保っている。
それをごく自然にこなしている。
今回も、「球場に入った瞬間から泣きそうだった」と、感情的な高ぶりをごく自然に受け入れている。
大人としての成熟性の現れといえるだろう。
今後、彼はどのような道を歩むのか。
目が離せない。
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