内外からの厳しい要求、迫り来る期限、目標達成へのプレッシャー…。社会生活の中で、ストレス状況は誰にでもあると思います。しかし、同じ状況下にあっても、人によってストレス反応の大小はさまざまです。
では、その差は何なのでしょうか。
理性感情行動心理学では、「思考」がストレス反応を増幅させていると考えます。
私たちの思考がどのように感情や行動に影響しているのか、思考をどう変えればストレスを軽減できるのか、お伝えしたいと思います。
感情や行動を左右する「思考」
理性感情行動心理学では、行動や結果を生み出すのは、出来事や状況ではなく、その人の持っている思考であると説明されています。つまり、ストレス状況に負けず、状況の改善につながる行動を取れるかどうかは、思考、つまり考え方次第だということです。
例えば、仕事で何らかの成果が求められている状況があるとしましょう。Aさんは、「期待に応えたい!」と思う一方で、「本当にできるだろうか…」という心配もしています。そこで、同僚に相談してアイディアをもらい、スケジュールや時間の使い方も見直すなど、Aさんなりの最善を尽くしました。
一方で、Bさんは「期待に応えなければならない」と思い、「失敗してはいけない」と自分にプレッシャーをかけました。しかし、「失敗してしまうかもしれない」という不安に耐えられず、その仕事から降ろしてもらいました(もちろん、上司はとてもがっかりしました)。
Aさんはベストを尽くすことができましたが、Bさんは苦しみ、逃げ出してしまいました。Bさんの何がいけなかったのでしょうか。
ストレスの元凶「ねばならぬ」
Bさんが逃げ出した背景には、「絶対にこうでなくてはならない」と、結果の保証を要求する「ねばならぬ」思考がありました。これは勇ましく聞こえますし、そう考えたほうが成功する確率が上がりそうな気もします。しかし、実際にはそうはなりません。
「ねばならぬ」と思うほど、自分を追い込み、プレッシャーをかけてしまいます。なぜなら、あってはならないことが起きてしまうことは、その人にとって悲劇でしかなく、その悲劇をどうしても避けたいと思うからです。
すると、常に「失敗したらどうしよう」「そうなったら最悪だ」という不安がつきまといます。不安に多くのエネルギーが割かれるので、パニック状態に陥り、問題解決に集中することは難しくなります。車に例えるなら、アクセルとブレーキの両方を踏んでいる状態です。パソコンなら、フリーズしてしまうでしょう。
もし成功できたとしても、達成までのプロセスが苦痛なので、疲労困ぱいしてしまいます。そのうち、燃え尽きてしまうかもしれません。
もし失敗したら、深く傷つきます。自分を責めて心を病んでしまったり、誰かを責めて人間関係を壊してしまったりするかもしれません。いずれにしろ、再度チャレンジする意欲は湧きません。
矛盾のない「望ましい」思考のススメ
では、どういう思考であれば矛盾や葛藤が生じず、落ち着いて行動できるのでしょうか。私は、「ねばらならぬ」の代わりに「望ましい」と考えることをオススメします。「期待に応えなければならない」と考えていたBさんの例をもとに、5つのステップで紹介しましょう。
1.願望として認める
「期待に応えることが望ましい」「期待に応えたい」という願望として認めます。価値観や目標を願望として追及することはとても大事です。
2.「ねばならぬ」を否定する
「必ず期待に応え続けられる」という理屈はありません。非合理的な都合のいい思い込みでしかなく、メリットもないことを認めます。
3.失敗もあり得ることを受け入れる
「期待に応えられないこともある」という事実を受け入れます。「あってはならないこと」ではなく、「あり得る大きなこと」が起きてしまったと思えば良いのです。
4.「最悪の悲劇」を「許容リスク」に修正
仮に期待に応えられなくても、理想から遠くても、実際には生きていけるし、なんとかなることを認めます。「最悪の悲劇」ではなく、「許容リスク」へと修正していきましょう。
5.「望ましい」思考で行動を起こす
1の願望に立ち返り、期待に応えていくために、落ち着いて行動に移していきます。
危機管理に有効な「思考」の品質管理
安全やコンプライアンスを守っていくうえでも、思考は非常に重要です。「ねばならぬ」思考で視野が狭くなり、パニック状態に陥ると、悪意はなかったとしても、コンプライアンスも安全もどうでもよくなってしまうのです。
今、企業には思考の品質管理が求められていると思います。システムが完璧でも、プロセスを管理しても、実際に行うのは人です。大切なのは、一人ひとりの思考や感情なのです。
ですから、社員に危機感を植え付けて「ねばならぬ」思考をさせてしまうと、企業は中長期的に伸び悩んでしまうと思います。社員が元気をなくして業務能率が低下し、ミスや事故が増えてしまうかもしれません。
また、「ねばならぬ」思考は健康にもよくありません。状況を緊急事態だと捉えてしまうので、血圧が上がります。その状態が続くと今度は代謝が落ち、うつ状態に入ってしまうのです。誤解しないでほしいのですが、厳しい規則や努力をやめろという意味ではありません。安心して努力でき、規則を守れるスキルとして、私は「望ましい」思考をオススメしています。
「望ましい」は職場を明るくする
思考が変わると、コミュニケーションの仕方も変わってきます。相手への「ねばならなぬ」がなくなり、受容的になれるのです。例えば、職場にイライラした人や元気のない人がいたとしましょう。私たちは良かれと思って、「怒ってもムダだよ」となだめたり、「元気出してよ」と励ましたり、「こうしたら」と助言したりしますが、それは逆効果です。
ただ話を聴いてあげてください。そして、「本当に不愉快だったんだね」「そんなに悲しかったんだね」と、感情を受け入れてあげてください。すると、相手も冷静になれたり、前向きになれたりするものです。その積み重ねが、明るくて居心地の良い職場につながってきます。
あなたが今持っている思考は、すべて生まれつき備わっていたものではありません。思考は、訓練によって変えることができます。ぜひ、5つのステップを繰り返して非合理的な「ねばならぬ」思考を、合理的な「望ましい」思考に変えていってください。きっと心が軽やかになり、ストレス状況下でも今まで以上に力を発揮できるようになるはずです。
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