今週ほど「プレゼン」という言葉が注目されたことはあまりないだろう。
言うまでもなく、2020年の夏季五輪開催地を決めるIOC総会における東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の最終プレゼンテーションの話である。まずは、東京開催が決定した事を、素直に喜びたい。
今回、東京招致委のプレゼン、特に安倍首相の演説が東京開催の決定打となったとロイター通信が伝えるなど、プレゼンの果たした役割が大きいようだ。
実際の決定要因は分からないし、委員会以外にも多くの人が力を合わせた結果でもあるだろう。プレゼンの内容や東京でのオリンピック開催自体についても賛否両論があるので、それには触れない。
ただ、一般にプレゼンが苦手と言われている日本人が、国際舞台の場で、素晴らしいプレゼンテーションを行ったということは、十分に賞賛できると思う。
安倍首相プレゼンの説得力
プレゼンの焦点となったと言われているのが、福島第一原発の汚染水問題についての安倍首相の発言。
英語のプレゼンテーションの冒頭で、ゆっくりと、落ち着いた表情で、「事態はコントロールできている。東京へのダメージはないことを保証する」という内容を簡潔につたえている。
さらに、質疑応答セッションで、IOC委員からこの点について質問があり、日本語で、
「まず結論から申しますと、まったく問題ありません」と自信をもって回答。
その後、
「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で、完全にブロックされています」
福島の近海での水質モニタリングの結果、「数値は最大でもWHOの水質ガイドラインの500分の1」
と具体的な根拠を挙げて説明した。
聴衆には、安倍首相のリーダーとしての決意と信念が感じられるプレゼンであったと思う。
その裏には、論理的なプレゼンの構造と、数字をベースにした根拠の説明、があった。
もし、首相が、汚染水問題について、曖昧な表現をしたり、長々と東京開催のメリットを伝えた最後に説明したとしたらどうだろう。この問題に懸念を持っていたと言われるIOC委員会の受ける印象はだいぶ違ったはずだ。
質疑応答の質問に対して、「我々は全力でコントロールします!」のような精神論だけで回答したらどうだろう。恐らく、首相はこの問題を真剣に考えていない、あるいは、実は状況に対処できていない、と思われたのではないだろうか。
「半沢直樹」の反撃方法
このプレゼンを見て思い出したのが、同じ週末に放映された人気ドラマ「半沢直樹」第8話の1シーンである。
なんとこの回の視聴率は平均視聴率32.9%、瞬間最高視聴率37.5%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。
ドラマを見ていない人には分かりづらいが、このドラマの見せ場は、主人公の銀行員・半沢直樹のプレゼンシーンであることが多い。
今回の第8話では、銀行内で金融庁検査の模擬検査を実施することになり、(いつものパターンではあるが)ホテル再建計画のプレゼン後の質疑応答で、半沢は窮地に追い込まれる。
検査官役は、データと論理の固まりのような福山。タブレット端末ばかり眺めながら、グイグイと再建計画の不備を突いてくる。
半沢が取った反撃方法は、その完璧にみえる福山の論理の矛盾を、現場・事実・信念を持って突くことだった。
毎回、プレゼンや交渉の場面でピンチに陥る半沢ではあるが、その表情はいつも自信に満ちている。
彼は、その場に臨むにあたり、徹底して根拠となる事実情報を足で稼いで、必死に準備をする。
プレゼンの構造(ドラマでは事実を切り出すタイミングなど)をしっかりと組み立て、事実や数字ベースの論理的な説明、そして信念をもって逆転する。
ドラマはフィクションで、現実離れした所もあり、実際のプレゼンとの比較はできないかもしれない。
ただ、このドラマに多くの人が共感しているのは、単に感情移入しているだけではなく、現場や事実、論理的であることがストーリーのベースにあるからではないかと思う。
プレゼンで大切なもの
以前の記事に書いたが、プレゼンの目的は「相手に行動を促すこと」である。
そのためには、相手の問題を解決することを考え、説得力のあるストーリーを展開することが大切だ。
説得力を持つには、論理的な説明であること、事実・数字などの根拠が明確であること、そして何よりも、信念をもっていることが、重要である。
今回のIOC総会のプレゼン、半沢直樹は、改めてそれを認識させてくれた。
<安倍首相のプレゼン動画>
<質疑応答動画>
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