体がだるい、手足が重い、疲れ易い、朝起きられない、食欲がない。
精神的にも落ち込む、やる気が出ない、考えもよくまとまらない。。。
この時期になると、うつ症状に似たいわゆる「五月病」を訴える新人が増える。
そもそも、五月病というのは正式な病名ではない。
それは、仕事や学校など、生活環境の大きな変化にうまく適応しようとして、張り切り状態を続けたあとに、今度はぐったりしてしまう状態を指している。
五月病はなにも新人に限られた話ではない。ベテランであっても気をつけておきたい誰にでも起こりえる状態だ。
したがって、そのメカニズムを知っておくのは有益だ。回復にも予防にも役立つ。
ポリヴェーガル理論
五月病は、自律神経のバランスが崩れた状態であるというのが一般的な説明だ。
つまり、体を興奮させる「交感神経」と弛緩させる「副交感神経」のバランスが崩れているという説明だ。
近年の神経生理学的な研究に、この「バランス理論」を超えた理論が注目されている。ステッフェン・ポージス教授らの「ポリヴェーガル理論」である。
ポリヴェーガル理論によると、人間を含む多くのほ乳動物の自律神経は、3つの独立した回路による階層をなしている。
一番上に、腹側迷走神経(VVC)、真ん中に、交感神経(SNS)、一番下に、背側迷走神経(DVC)。VVCとDVCは副交感神経系だ。
そして、外部環境の安全の度合いによって、これらの神経回路のスイッチが入れ替わる。外部環境が安全なものであれば、最上段の、副交感神経の一種である腹側迷走神経(VVC)の活性化した、「社会友好」モードスイッチが入る。いわゆる平常心の状態である。柔軟的な思考が可能となり、また創造的にもなり易い。フレンドリーな行動も取れる。
外部環境を危険な状態として認識すると、次の交感神経(SNS)のスイッチが入る。
猫に狙われたねずみが、防衛反応として、まずは必死に逃げ回る。逃げ切れないと反撃を始める。これが、交感神経(SNS)の活性化した「逃避/戦闘」状態だ。
人間の場合、この自律神経状態では、思考は硬直化するので、絶対思考が強くなる。高次の知的作業ができなくなる。不安感情と怒り感情も強くなる。
反撃しても勝ち目がないとなると、ネズミは、最後の防衛反応として「死んだふり」状態に入る。副交感神経(特に背側迷走神経=DVC)の活性化した状態だ。なぜ「死んだふり」が防衛になるかといえば、天敵は死んだ獲物を食べないからだ。熊に出会ったら、死んだふりをしろと言われる所以だ。人間の場合、この状態では、気分は落ち込み、やる気も出ない。思考は絶望思考が強くなる。まさに五月病やうつ症状とぴったりだ。
五月病は「死んだふり」状態?
このポリヴェーガル理論に基づき、五月病を、ほ乳動物の持つごく自然な防衛本能による反応であると考えた方が臨床的にも説明がつきやすい。4月から続いた、「逃避/戦闘」状態という興奮モードから、ほ乳動物の最後の防衛反応である「死んだふり」状態という弛緩モードへと体が入った状態と考えるわけだ。
ただし、この状態は、外部環境としては生命的な危険はないはずなので、実は過剰な反応といえる。五月病(うつ症状を含む)からの回復には、十分な休息と、外部環境が安全であるという認識が大切だ。
再発防止として、そもそも「死んだふり」モードの前兆である「逃避/戦闘」モードに陥らないようにすることも肝要だ。
それには、腹側迷走神経(VVC)の活性化した「社会友好」モードの状態をキープする努力が大切だ。規則正しい生活と、外部環境をあるがままに受入れる柔軟な思考の訓練が重要だ。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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<参考資料>
・「ポリヴェーガル理論」についてのポージス教授インタビュー(紹介ビデオ)
・ポージス教授の著書「ポリヴェーガル理論」
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