松井秀喜選手に国民栄誉賞が授与されることが固まった。
松井選手のファンとしてはとてもうれしい。
卓越したアスリートであることに加え、松井選手は優れた“思考家”でもある。私は、彼から多くの思考方法を学んだ。
松井選手は消極的な思考?
そのひとつに、「しょうがない思考」がある。
松井選手は「しょうがない(仕方ない)」というフレーズを含むコメントを多く残している。
不本意な成績でシーズンを終えた際、
“何か不完全燃焼という感じですがしょうがない”
試合でヒットを出せなかった際、
“打てれば嬉しいけど、打てなくてもしょうがない”
打ったものの、アウトをとられた時、
“悪い当たりではないけど、しょうがない”
バックホームしたが、アウトを取れなかった際、
“最後はバウンドが悪くなった。仕方ない”
確か彼が30歳になった時だったと思う。
スポーツ記者のインタビューに答え、
“今後、飛躍的なパワーアップを望むのは難しいだろうね。寂しい?ん、しょうがないよ”
とコメントしていた。
「しょうがない」とか、「仕方ない」との表現は、状況に働きかけるすべがない、結果を制御できない、どうしようもない、という意味だ。
あきらめにも聞こえる消極的な思考と捉えられがちだ。
松井選手の「しょうがない」は、前向きな「受容」思考
しかし、よく聴くと、松井選手は、過去の出来事や起きてしまった結果に対して、この表現を用いている。
確かに、過去の出来事を変えたり、起こってしまった結果を後付けで制御したりするのは不可能だ。無論、加齢も止められない。
つまるところ、起きてしまったことは、どうしようもないのだ。
まさに、どうしようもないのだ。変える方法がないのである。
要するに、松井選手は「起きた出来事」、「起きた結果」をしっかりと受け止めている。
これは、簡単そうでなかなか難しい。
例えば、ミスをする。
「なんであんなミスをしたのだろう!」
「あんなミスなど絶対にしてはならなかった!」
などと、うじうじ反芻(はんすう)し続けてしまっていないだろうか。
どんなに、「あんなミスは絶対にしてはならなかった」といまさら要求したところで、起こしたミスがなくなるわけがない。
それどころか、「絶対に起きてはならないことが、事実起きた」という折り合いの付けがたい矛盾を造り出し、結果、自分をがんじがらめにするだけだ。無駄にエネルギーを消耗することになる。
また、彼の「しょうがない」は、「忘れる」、「無かった事にする」という「臭いものにふたをする」逃げのコーピングでもない。
そもそも、いまわしい過去を忘れることができるはずがない。忘れようと努力すればするほど思い出してしまうだろう。
松井選手の「しょうがない」は、制御不能な事実を勇気を持って潔く受入れる、「受容」思考だ。
あきらめたり、なげやりになったり、逃げたりする負の思考ではない。
その証に、チームが勝てなかった時、
“仕方ない。また明日頑張る”
と言っていた。
松井選手の「しょうがない」は、過去を受け入れ、過去に学びながら、これからの「制御可能」な要素に自分のエネルギーを注ぐという、すこぶる前向きな思考と言える。
松井選手の、新たな活躍が楽しみだ。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
高杉事務所へのお問い合わせはtakasugisoken.comへ
<参考記事>
「松井秀喜引退の美学!イチローとの対談にみるコミュニケーションの極意」
イチローの鋭いコメントを見事に受け流す松井の姿が印象的な対談動画をベースに、コミュニケーションの極意を解説しています。
- 職場のコミュニケーションをよくする「ストレス軽減思考法」 - 2015年6月13日
- 【英語の丁寧表現】状況に応じて使い分けてみよう! - 2014年8月7日
- 英語の上達法【レシテーション】(暗唱法) - 2014年7月8日