交渉力アップのための生産的交渉の基本その2は、「論理」と「理性」です。
交渉の場面で、お互い感情的になって交渉が決裂したり、全く論拠のない主張をしあったり、という経験はないでしょうか?これでは、とても生産的な交渉とは言えないでしょう。
交渉には論理思考が不可欠
生産的な交渉では、主張をしたら、必ずその論拠を述べるようにします。それが論理的であることの原点です。
お互いが、その主張と論拠を理解しあって、はじめて双方の満足度の高い交渉につながります。
もし相手が非合理的な主張をしてきた場合でも、その論拠を探るようにし、少なくとも、自分は論理的な姿勢を保ちましょう。
感情的にならない
相手が感情的になったり、のらりくらりとした態度をとっている場合など、自分も感情的になってしまうかもしれません。ただそうなっては、論理的に考えることはできません。感情的にならないよう耐える姿勢が重要です。
では、「論理的に考える」ことができなかった交渉の失敗例を見てみましょう。
失敗例 Bad Example
<状況>
部長のタナカさんが、課長のスズキさんに、売上減少の原因説明と今後の改善プランについて尋ねましたが、どうも的を射た答えが返って来ないようです。
タナカ:
スズキくん、最近、調子はどうだね?
スズキ:
忙しいですが、まあ何とかやっています。
タナカ:
今、先月の売上速報を受け取ったところなんだが、ちょっと心配でね。先々月から売上が減少基調にあるが、きみの見立てはどのようなものかね?
スズキ:
そうですね。ご指摘のとおり、売上は減少傾向にありますね・・・(沈黙)
タナカ:
そんなことは分かっている。きみがこの状況をどう見ているのかを聞いているんだ。
スズキ:
まあその、私も心配しておりまして・・・。ただ、たぶん、これは短期的な現象と思われます。とはいうものの、まだしばらくは続くかもしれないな、という気もします。
タナカ:
何を言っているんだ。よく分からないな。売上減少の原因は何なんだ?
スズキ:
まあその、不景気で倒産件数も増えていますし、失業率も高いままです。
タナカ:
マクロ分析もありがたいけどね、当社の売上はなぜ減少しているんだ?
スズキ:
まあその、問題は当社の価格かもしれません。あるいは競合の新製品の影響かもしれません。
タナカ:
煮え切らない説明はやめてくれ。いったい、きみにはどんな改善案があるんだ?今後、どんな策をとるつもりなんだ?
スズキ:
販売力の強化と、販売プロセスの再構築かと思います。
タナカ:
「販売力の強化?」「再構築?」具体的にはどうしようと思っているんだ!具体策はあるのかね!
スズキ:
ごもっともです。すぐに取りかかります。
タナカ:
それがいいだろう。もし失業したくないならね。
どこがいけなかったのか?
タナカさんはいらだちを隠せませんでしたね。スズキさんの説明と、タナカさんの上司としての言動を、「論理」と「理性」の観点から見てみましょう。
説明が論理的でなかった
課長のスズキさんは、部長のタナカさんから、売上の減少の理由について尋ねられたにも関わらず、あいまいな回答しかできませんでした。
論理的であるためには、主張をしたら必ずその論拠を述べることが基本です。論拠には、原因、事例、数字、データなど色んなものが考えられますが、相手が納得できるようなものでなければなりません。
スズキさんの場合は、論理的な説明を行う上での準備が不足していたと思われます。準備不足にも関わらず、論拠のないあいまいな回答をしてしまいました。たとえタナカさんが、突然やってきたとしても、あらかじめ相手の関心事を事前に考えておけば、調べておくことはできたはずです。売上速報の数字を知りながら、その原因と対策を考えていなかったというのは、課長として褒められたことではありませんね。
感情をコントロールできなかった
部長のタナカさんにも落ち度があります。スズキさんから納得のいく回答が得られなかったため、次第にいらだってしまいました。
スズキさんが、売上減少の理由を把握していないことは、早めに分かったはずです。であれば、怒りだすのではなく、なぜ把握していないのか、その原因を探るべきでした。単なる怠慢なのか、業務量が多すぎるのか、あるいは他の理由があるのか。ただ怒るだけでは、上司としての問題解明の責任を怠ったといえます。
交渉において、クイック・レスポンスは禁物です。特に、相手の感情的な発言に対して、即反応してしまうと、感情的なやりとりをエスカレートさせてしまいます。まずは深呼吸して、平常心を保つようにします。
では、次に成功例を見てみましょう。
成功例 Good Example
タナカ:
スズキくん、最近、調子はどうだね?
スズキ:
何とかやっています。ちょうど今、私もお伺いしようと思っていたところでした。
タナカ:
今、先月の売上速報を受け取ったところなんだが、ちょっと心配でね。先々月から売上が減少基調にあるが、きみの見立てはどのようなものかね?
スズキ:
はい。実は、私もこの件についてご相談したいと考えていました。私も今、この数字を手にしたところです。
- 既に状況を把握し、準備ができている様子が伺える
タナカ:
そうかね。それで、きみはどのように見ているんだ?
スズキ:
ご存知のとおり、わが社は廉価製品から、高付加価値のプレミアム製品に販売の重点を移しつつあります。
タナカ:
ああ、それは分かっている。半年前に、私が承認したのだからな。当社の廉価製品は、低価格の輸入品に対して価格競争力がなくなったので、そのセグメントからは撤退し、代わりにプレミアム製品に軸足を移したわけだ。
スズキ:
まさにそのとおりです。現状の売上の減少は、廉価製品からの撤退が原因だと思われます。プレミアム製品の勢いが増すのには多少時間がかかりますので。
- 相手の発言を肯定しながら、具体的な原因を伝えている。
タナカ:
だから、社全体の売上が減少したということか。だとすると、全社の売上が上向き始めるのはいつ頃だと予測できるかな?
スズキ:
たぶん、ここ1、2ヶ月中でしょう。この売上速報をよく見ますと、売上は減少しているにもかからわらず、利益水準は同じレベルを維持しています。これは、プレミアム製品の利益率が高いためです。
- 前向きな追加情報を提供しており、説得力と信頼感が感じられる。
タナカ:
それはよかった。心配する事はなさそうだな。引き続きがんばってくれたまえ。情報を回してくれるのを忘れずにな。
スズキ:
もちろんです。おまかせください。
タナカ:
ところで、きみの最後の昇給はいつだったかね?
以上、生産的交渉の【基本(2)】「論理的に考え理性的に振る舞う」をご紹介しました。
今日の内容は、Kisobiコンテンツプロデューサー高杉尚孝(ヘンリー高杉)の著書
実践・交渉のセオリー―ビジネスパーソン必修の13のコミュニケーションテクニック
をベースに作成しています。
- ビジネスモデルが会計の数字を決める(後編)|大津広一氏インタビュー - 2014年11月4日
- ビジネスモデルが会計の数字を決める(前編)|大津広一氏インタビュー - 2014年10月30日
- ビジネスリーダーになるには会計・財務スキルは必須 - 2014年9月12日