ロジカルシンキングを実践する上で、気をつけたいのが思考のバイアスだ。知らず知らずのうちにビジネスパーソンに求められる論理的思考を妨害する。
少ないものには価値があるという「希少性」に対する思い込みもその一つだ。
「フェラーリを求めるならば待たなければならない。美女と食事をするまでのわくわくする感情、それと同じ楽しみが味わえる」日経産業新聞14.02.05
フェラーリのルカ・ディ・モンテゼーモロ会長が取材で語った言葉だそうだ。供給台数が多すぎるということで、同社は2013年の販売台数を前年比4%減とした。
成長が前提の世の中でうらやましくも思える。同会長は、消費者に容易には手が届かないというイメージを常に持たせる「唯一性」が大事だと言う。
モンテゼーモロ会長言う通り、高級ブランドを維持するためには、簡単に手に入れられないように仕組んでおくことが大切だ。基本的なやり方としては、値段をつり上げるか、供給を絞るかだ。
フェラーリのように両方やる場合も多い。宝石、ファッション、腕時計など嗜好性の高い商品のマーケティングではごく一般的な手法だ。
「限定品」は人工的に作られた希少性
高級ブランドではなくとも、供給量を絞るのは消費者の購買意欲を生み出すため頻繁に見受けられる手法だ。
その根底にあるのが、「希少性」だ。人は少なさに価値を見い出す。
よい例が、いわゆる「限定品」だ。
数量限定の口紅、1日100食限定のグルメラーメン、数量限定の特売品など早いもの勝ちの数量の限定。
期間限定の季節ものビール、期間限定のファーストフードメニュー、期間限定の値引きなど、期限を設けるやり方の限定。
東京駅限定販売のお菓子、北海道店舗限定のお土産、ネット販売限定のデジカメなど、こちらは販売チャネルの限定。
どれも希少性を人工的に作り出す手法だ。悪く言えば、希少性の捏造。
人が希少性に誘惑されるのは生存本能
もし限定品が購買意欲をそそるのであれば、そもそも人はなぜ希少性に揺さぶられ、誘惑されるのだろうか。
概ねそれは、論理的思考を超えた人間の自己保全の本能と深く関わっているからだろう。今でこそ、少なくとも日本では身の回りに物が氾濫している。しかし、人類の歴史から見れば、これはつい最近の出来事でしかない。
百年前までは(それ以前200万年の間)生きて行く上で不可欠とされた物資はすべて「限定品」だった。
したがって、「限定品」と聞くと、生存に向けた本能的なスイッチが入る。
「今回限りです!」「このチャンスをお見逃し無く!」「締め切り迫る!」などとまくし立てられると、グサッと来てしまう。
テレビのテレフォンショッピングは、よく残りの商品の数が段々減ってくる様を視聴者に見せる。ともすると、無意識に「もう無くなっちゃうの?じゃあ早く手に入れなくちゃ!」などと考えてしまう。
論理的思考のスイッチを入れよう
そんな兆候に気づいたら、すぐさま論理的思考のスイッチを入れよう。ロジカルに考えれば、「必要でも不可欠でもないものが少なくなろうが無くなろうが何の問題もない」はずだ。
今後もマーケターはありとあらゆる「希少性」を持ち出し、私たちに揺さぶりをかけ続けるだろう。多いに気をつけたいものだ。さもないと無用な物をたくさん買い込むことになりかねない。。。
確かに、必需品ではないにしろフェラーリには希少価値があるのかもしれない。近い将来無くなりはしないだろうが一度は乗っておきたいものだ。読者にフェラーリのオーナーがおられたらぜひ招待をお願いしたい。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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<参考書籍>
論理表現力ーロジカル・シンキング&ライティング(高杉尚孝著)
- 職場のコミュニケーションをよくする「ストレス軽減思考法」 - 2015年6月13日
- 【英語の丁寧表現】状況に応じて使い分けてみよう! - 2014年8月7日
- 英語の上達法【レシテーション】(暗唱法) - 2014年7月8日