ロジカルシンキングの実践の邪魔をするのが、思考のバイアスだ。いわば脳の持つ「癖」だ。知らず知らずのうちにビジネスパーソンに求められる論理的思考を妨害する。
物事を悪い方へ悪い方へと考えてしまう「悲観思考」のバイアスもその一つ。
大雪予報のおかげでダメージを軽減
「あすは西日本と東日本の平野部で雪が積もり、東京では去年1月を上回る大雪となるおそれがある。暴風にも警戒が必要だ」(気象庁臨時期会見NHK NEWSweb14.02.07)
気象庁の大雪予報は的中した。
翌日東京は、20年来の大雪となった。23区でも2013年1月14日の成人式の日の大雪を超える20センチ超の積雪となった。空や陸の交通網にも大きな影響が出た。時節柄、受験生はさぞ大変だったことだろう。
とはいえ、大雪予報のおかげで、心の準備もできたし、また事前になにかと対策を取る事もできた。除雪用のスコップや融雪剤が良く売れたそうだ。試験場に当日向かおうと考えていたが、急遽前泊に切り替えた受験生もいたと聞く。
確かに不意打ちを食らった場合に比べれば、完璧ではないにしろ予報のおかげでダメージを多少なりとも軽減できた。気象庁に感謝の気持ちを抱くであろう。もちろん、中には「それが気象庁の仕事なのだから、当たって当然」という方もおられるだろうが。
予報のはずれ方で人々の反応は異なる
では、もし仮に大雪予報がはずれて、大雪にならなかったらどうだったであろう。
準備は無駄になったであろうが、恐れていた損失を免れたことから、「ああ良かった」と、安堵する人は多かったはずだ。「予報は頼りにならないものだ。でもはずれて良かった」と気象庁に対しても、感謝はしないだろうが、さほど強い反感を抱かないだろう。
たが、同じはずれでも、気象庁の予報が「大した雪ではない」ましてや「晴天」だったのに、「大雪」になったとしたらどうであろう。
まさか、「大雪は気象庁のせいだ!」とクレームをつける人はいないとしても、中には「間違った予報のせいで、えらく迷惑した!」「もっとしっかりしろ!」「気象庁は嘘つきだ!」などと、予報が外れたという事実は同じでも、気象庁に対して怒りや不信感など強い負の感情を覚える人は多いだろう。
逆に、良い予報が当たった場合、周りはいつも通りの生活を送るだけだ。また、気象庁も職務としてやるべきことをしただけである。褒め讃えられることは多分ないだろう。
物事を悲観的にとらえたほうが都合がよい?
こう考えてくると、気象庁としては悪い方へと大げさな予報を発表する方が何かと無難だといえる。決して「気象庁がそうしている」などといがかりをつけるつもりはない。
気象庁を、私たちビジネスパーソンに置き換えてみてはどうであろう。
この天気予報の当りはずれを一般化すれば、私たちは物事を悲観的にとらえた方がなにかと都合がよいことになる。
「悲観的に考える」つまり物事に対して、起こりうる悪い結果考える方が都合がよいのだ。そしてどうも脳はそれを本能的に分かっているようだ。確かに、悪い結果を想定した上で、それを避けることで人類はこれまで絶滅しないで済んだのだろう。
ただ、悩ましいのはこのバイアスが行き過ぎると、悪いことを考えすぎて、なにも行動を起こさないという過剰反応を招くことになりかねない点だ。
例えば、ある新規プロジェクトを評価する際に、過度に悲観的なシナリオばかりを描いてしまうと、早まって却下してしまうことになりかねない。
論理的思考を実践するに当り大切なのは、予防策や発生時の対策を考えさせるという悲観思考のメリットと過度の悲観思考のデメリットを理解することだ。
同時に、悲観思考へのバイアスを認識しながら、意識的に良い面を見つけ出す努力も、アクションを誘発するためには重要だ。もちろん、下方リスクを無視した、無謀な楽観主義は問題だが。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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<参考書籍>
論理表現力ーロジカル・シンキング&ライティング(高杉尚孝著)
- 職場のコミュニケーションをよくする「ストレス軽減思考法」 - 2015年6月13日
- 【英語の丁寧表現】状況に応じて使い分けてみよう! - 2014年8月7日
- 英語の上達法【レシテーション】(暗唱法) - 2014年7月8日