先だって、私が投資銀行に勤務していたころの友人が代表理事をつとめる「公益社団法人 会社役員育成機構」主宰の、企業ガバナンス(コーポレート・ガバナンス 英:corporate governance)のセミナーに参加した。
グローバルリーダー育成やグローバル経営を考える上で、企業ガバナンスの基本理解の大切さを改めて認識する機会となった。
グローバル基準から見た、日本のビジネスパーソンのウィークポイントとして、論理的思考やプレゼンテーションなどのコミュニケーション力、ストレス耐性、ファイナンスなどがよく挙げられる。もちろん語学も。
これらに加えて、「企業ガバナンス」に関する民度も決して高いとは言えないと思う。
「統治」と訳される「ガバナンス(governance)」という言葉の意味がしっくりと理解できない、ということも背景にはあるだろう。
理解されていない取締役会の役割
企業ガバナンスの根幹を成す中心的な仕組みは取締役会である。
グローバルリーダー育成の場で実感するに、この取締役会の役割をしっかりと認識できている日本のビジネスパーソンは意外と少ない。
そもそも、取締役会を構成する「取締役」という役職がどのように受け止められているかと言えば、一般的には、「会社の偉い人」、「サラリーマン人生の終着点」、「重役」のようなイメージだ。
取締役が、全株主の視点から、長期的な利益を最大化するという役割を担っているという理解はほとんどない。
ましてや、取締役が、社長を含む他の取締役をも監視する義務を担っているという理解もほぼない。
取締役自身も、株主の利益を守るというよりも、特定の事業部のそれを代表しているのが現実であろう。他の事業部を代表する取締役に対して意見することは稀だろうし、ましてや取締役に引き上げてくれた社長に苦言を呈することなどしないだろう。株主の利害を反映する役割からはほど遠い印象がある。
取締役会は株主利益の保護を担う
近年、導入の進んでいる執行役員制度も、肥大した取締役会の人数を減らすことにより、意思決定のスピードを速めるところに主眼があるようだ。少数精鋭の取締役会により、株主の利益を担保するとの発想は希薄のように思える。
例えば、トヨタ自動車は2011年に、27人いた取締役人数を11人に削減したものの、その趣旨は、取締役会をコンパクト化することによってコミュニケーションを密にするというものだった。
ちなみに、先のセミナーの講演者のひとりであった、企業ガバナンス分野の世界的権威であるザンクト・ガレン大学 (スイス)マルティン・ヒルブ教授によれば、大企業における取締役会の上限は7名、それ以上だとうまく機能しないそうだ。執行役員制導入の先駆けとなったソニーの取締役は14人。三菱商事は12人。富士通も12人。
米国流の経営によくある、「企業は株主の所有物」という考え方に100%賛同しないとしても、リスクマネーの提供者である株主の利益の保護を取締役会が担うという理解は、グローバルリーダーには欠かせないであろう。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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マルティン・ヒルブ教授によるプレゼン
(先般のセミナーの動画ではないが、同内容)
ヒルブ教授のサイト
参考文献
- 職場のコミュニケーションをよくする「ストレス軽減思考法」 - 2015年6月13日
- 【英語の丁寧表現】状況に応じて使い分けてみよう! - 2014年8月7日
- 英語の上達法【レシテーション】(暗唱法) - 2014年7月8日