ソフトバンクの買収しようとしている米携帯電話会社Sprint Nextelに、米衛星放送のDISH Network社がソフトバンクの提案に13%のプレミアムを上乗せした買収案を提示した。総額255億ドルだそうだ。(参照記事:日経ITPro)
一般的に、企業買収交渉などにおいては、企業の値段の目安をつける方法として、企業の資産価値、類似取引、そして理論的に算出する方法がある。それら3つについて紹介する。
資産価値をベースに企業の値段をつける方法
資産価値をベースにしたアプローチは、買収対象企業の帳簿上の資産を売りさばいたらいくらになるかという考え方だ。考え方としては理解しやすい。
しかし、帳簿上の価値と実際に売れる市場価値とに乖離がある。また、情報集約型の企業の資産はひとの頭脳だ。これは、貸借対照表には載っていない。スティーブ・ジョブスの才能は、アップル社財務諸表のどこにも見当たらない。
類似取引を参考にして企業の値段をつける方法
類似取引を参考にする場合は、単年度の会計上の利益や、キャッシュフローなどの何倍で取引されたかを参考にする。この倍率は「マルチプル」などと呼ばれる。
だが、現実的には類似取引がない場合も多い。特に大型案件の場合はそうだ。また、類似案件があったとしても、その価格が適切であったのかという疑問が残る。
理論的に企業の価値を算出する方法
理論的なアプローチの主流は、DCF法(Discounted Cashflow Method)だ。このキャッシュフロー割引法は、当該企業の生み出すこれからの現金収入の総和を現在の値に引き直すことで企業の価値を算出するという手法だ。
将来のキャッシュフローを現在価値化する際の「割引率」や、残存価値を計算する際の「永久成長率」等の設定によって企業価値は大きく変わってくる。無論、キャッシュフローの予測によってもだ。
(DCF法やキャッシュフローの基本については、コチラで説明しているので参照してほしい)
これらのアプローチによる値段を参考にしながら、買収交渉に入る。二者間での交渉でさえ簡単ではない。そこに、競争相手が入ってくるとなおさらだ。
回避したいオークションの心理のワナによる高値づかみ
その際、注意を要するのが、オークションの心理の罠(ワナ)に陥らないことである。
「どんなことがあっても、競争相手に落札させてはならない」
「絶対に買収を成功させねばならない」
という心理にだ。相手に負けないこと、買収すること自体が目的になってしまう心理だ。
とりわけ、入札価格は徐々に上がっていくことから、もう少しで落札できる、今度こそ競争相手は手を引くはずだと、入札をつづけてしまう。気がつくと、価格はとんでもないところまでつり上がってしまっているのである。仮に落札できたとしても、とてつもなく高い買い物をしてしまうことになる。
大手タイヤメーカーのブリヂストンが1988年に当時米国第2位だったタイヤメーカー「ファイアストン」社を、イタリアのピレリ社との競り合いの後に、高値で買収したケースが思い出される。
競り合いの心理の罠による高値の買い物を回避するには、しっかりと、”Walk-away price” を設定しておくことだ。
これ以上は払わない。入札終了、交渉決裂価格をあらかじめ決めておいた上で、それを固守するのだ。
ソフトバンクとDISH社は入札合戦をくりひろげるのだろうか?Sprint社買収劇の今後が気になる。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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