2014年大相撲初場所が1月26日に千秋楽を迎えた。
当初、11年ぶりの日本人横綱の誕生かと、稀勢の里の綱取り挑戦が注目された。
終わってみれば、横綱白鵬28回目の優勝。千秋楽決定戦を含む鶴竜の健闘が印象的だった。
稀勢の里は、7勝7敗。右足親指の負傷により千秋楽を休場した。結果、負け越し決定。綱取りから一転、春場所は初のかど番へと追い込まれた。現役2位の通算連続出場も953回で途切れた。
今場所の稀勢の里は13勝2敗という成績を残した先場所の稀勢の里ではなかった。初日からの黒星スタート。対戦成績で8連勝中の豊ノ島に敗れた。
「仕切りで腰が全く割れていないのを見て嫌な予感がした。自分でガチガチになっていた」
−元横綱の北の湖理事長のコメント(日経新聞)
5日目に2敗。対戦成績5戦全勝の碧山に一気に押し出された。
「平常心じゃないよね。いつもと違うんでしょう」
−元横綱千代の富士の九重事業部長のコメント(スポニチアネックス)
8日目に3敗し、綱取りは消滅した。
「土俵入りの声援が破格。あれを聞いたら、『絶対に横綱にならなきゃいけない』と感じ、自分を追い込んでしまうのではないか」
−元横審委員で脚本家の内館牧子氏のコメント(日経新聞)
大きな期待を背負った重圧状況において、実力を発揮するのは難しいものだ。
しかし、内館牧子氏のコメントのように「絶対に横綱にならなきゃいけない」と自分を追い込むのが、なぜ良くないのだろうか。
横綱昇進への強い志の現れなのだから、悪い思考ではないのではないか。
事実、多くのスポーツ選手は、「絶対に勝たねばならない」「絶対に負けてはならない」と自分を追い込むことによって動機づけしていることだろう。
また、ビジネスパーソンのほとんども「絶対に成果を出さねばならない」「何としても目標を達成せねばならない」「絶対に失敗してはならない」と自分を追い込むことによって、自らを行動へと奮い立たせているはずだ。
この「ねばならぬ」という絶対要求思考の弊害を説明してくれている学説がある。
理性感情行動心理学の理論だ。
2007年に他界した米国心理学者アルバート・エリス博士によって体系化された心理療法学派だ。近年日本でも導入が見られる認知行動療法の源流である。
(参考記事:【ABC理論】思考や感情をコントロールしプレッシャーに打ち勝とう)
「絶対に横綱に昇進しなければならない」と自分に絶対的な要求を課してしまうと、昇進の失敗は「絶対に起きてはならない耐え難い最悪の悲劇」となる。
どんなに奮闘努力してみても、昇進の「保証」はないため、昇進できないというこの「絶対に起きてはならない耐え難い最悪の悲劇」が実現するかもしれない、という恐怖心を作り出してしまう。
恐怖心による動機づけは実力の発揮を阻害する。結果、横綱昇進が難しくなる。。。
確かに、平常心を失い、恐怖心でがんじがらめになれば、持てる力を充分に発揮できない。
よかれと思って「ねばならぬ」と自分を追い込むことがマイナスに働くならば、それはとんでもない話だ。
ビジネスパーソンのほとんどが、自ら自らの生産性を下げていることになってしまう。
内館牧子氏のコメントにあるように、稀勢の里が「ねばならぬ思考」に陥っているのであれば、ぜひそこから脱却し、春場所でまた活躍して欲しい。
もちろん、怪我をしっかりと治した上で。
がんばれ稀勢の里!
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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<参考書籍>
実践・プレッシャー管理のセオリー ~ビジネスパーソン必修 メンタル・タフネス強化のセルフ・コーチング術(高杉尚孝著)
- 職場のコミュニケーションをよくする「ストレス軽減思考法」 - 2015年6月13日
- 【英語の丁寧表現】状況に応じて使い分けてみよう! - 2014年8月7日
- 英語の上達法【レシテーション】(暗唱法) - 2014年7月8日