この年末年始の間に「変わりゆく教育」のようなテーマで、MOOC(Massive Open Online Courses – MOOCsとも)などオンライン学習や、タブレット端末を利用した新しい学習スタイルなどについて、いくつかの新聞やテレビが特集を組んでいた。まだ日本では、それほど普及しているとは言いがたいので、海外サービスや日本の取組みについて、教育の仕組みの変化を紹介する内容が多かった。
MOOC先進国の米国では、2012年にCoursera、edX、Udacityなどの大学講義系の配信サービスが始まり、多くの利用者を世界中から集めている。
2013年を通して、参加大学および講義の数は増え続け、東京大学がCourseraに参加したように米国外の大学のプログラムも受講できるようになってきた。
売りは、誰でも無料で受講できる、世界中のどこからでも、いつでも学べる、という点である。
一方、そのメリットに反して、受講者のレベルにばらつきがあることや、大学講義の動画を見て自己学習するのが基本スタイルであることからか、「修了率が数%しかない」、「理解度も低い」、などの問題も指摘されるようになってきている。
テクノロジーの進歩により、SNS機能で分からないところを質問しあえるなど、ある程度インタラクティブな仕組みは提供できてきているが、まだまだ試行錯誤の段階である。
Udacityの有料コース
このような中、主なMOOCsの1つであるUdacityが、年初のブログ記事で、2014年1月に「Full course experience」なる有料サービスの提供を開始するとアナウンスした。
有料コースの計画自体は、昨秋に発表されていたもので、予定通り開始するようだ。
このサービスが適用されるコースでは、
・パーソナルコーチがついて、質問に答えたり、フィードバックをもらったりできる
・計画的に学習できるようにガイドしてもらえる
・修了証をもらえる
などのサービスが受けられる。料金は、現在公開されているコースの場合、月額$150だ。
これらのコースは、期限がないので、自分のペースに合わせて進められる。
なぜ有料コースを始めるのか?
当初から言われているMOOCのビジネスモデルの1つに、「単位」や「修了証」を有料で提供する、というものがある。今回のUdacityのサービスは、この「修了証」発行に加えて、「パーソナルコーチ」という人を介する仕組みを取り入れたのが特徴だ。
この方針転換の背景には、2013年にUdacityが米サンノゼ州立大学と共同で行った実験(同じ講義をUdacityと大学のキャンパスで学んだ学生の成績を比較)の結果があると言われている。
結果は、Udacityで学んだ学生のほうが成績が悪かった。
この実験結果に基づき、今までのMOOCプログラムを見直しており、修了率や学習理解度を上げるための試みの1つが、今回の有料コースであるようだ。
Udacity創業者のセバスチャン・スラン氏は、元スタンフォード大学コンピュータサイエンス学部教授であり、Googleの無人自動車やグーグル・グラスなどのプロジェクトにも関わった人物である。
このような人であるため、Udacityでも受講者が人を介さずに自分で学習できる仕組みの実現を目指していたと思う。
それが、今回、ネットを通じた間接サービスとはいえ、コーチと受講生がやり取りをする形で学習効果を高めるというのは皮肉なものである。
MOOCはどのような形になっていくのか?
Udacityは、今回新たな方向性を打ち出したが、CourseraやedXなど他のMOOCも基本路線は維持しつつ、いろんな取組みを試み始めている。ビジネスモデルに加え、学習の仕方もまだまだ試行錯誤の段階だ。
海外のメディアでは、MOOCやオンライン学習に対して、批判的な記事も見かけるようになっている。
ただ、新しい取組みには失敗や試行錯誤はつきものである。それだけで「MOOCは失敗」というような短絡的な話にはならないと思う。
個別のMOOCの取組みから目を離して、オンライン学習や教育へのICT活用という視点で見てみると、スマホやタブレット端末の普及や、クラウドサービスの登場など、私たちの身の回りの環境は大きく変化している。
にも関わらず、教育だけは「従来のまま教室で先生の講義を受ける形式で残る」と考えるほうが非現実的である。
先日、Udacityと共同実験を行った米サンノゼ州立大学のケイヨミ学長の講演(参照記事)を聞く機会があった。実験結果をネガティブに捉えているのでなく、逆に積極的にMOOCやITを活用して教育の仕組みを革新して行こう、という意気込みが感じられた。
単に講義動画を見るだけのMOOCであればうまく行かないであろうが、「反転授業(オンラインで事前学習をして教室では演習や討議を行う)」や「データ分析技術による個人の習熟度に合わせたプログラムの提供」など、学びをより良くする方法は次々と産み出されている。
オンライン教育革命は、まだ始まったばかりだ。
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