BYOD(ビー・ワイ・オー・ディー)という言葉を聞いたことはあるだろうか?企業向けIT業界ではホットな話題の1つだが、一般には、まだなじみのない言葉だ。
Bring Your Own Deviceーの頭文字を並べた略語で、社員が自分所有のパソコン、タブレット端末、スマホなどのデバイスを会社に持ち込むなどして業務利用する、という意味。ワインなどのお酒をお店やパーティーに持ち込みをするBYO〜(Bring Your Own 〜)をもじった言葉らしい。
なぜIT用語をここKisobiで採り上げるかというと、最近のMOOC(Massive Open Online Course)に代表されるオンライン学習とBYODは親和性が高く、それが企業研修の変革に繋がるからだ。
BYOD登場の背景
BYODは「BYODを導入してワークスタイルを変革しよう」のように前向きな文脈で使われることが多い。
ただ、もともとは、社員が会社支給のシステムを嫌がって、陰で私物デバイスやオンラインサービスを許可なく業務に利用している現状(シャドーITというらしい)に、セキュリティ対策の考え方を変えざるを得なくなった、という面は大きいのではないだろうか。
社員の側から見れば、仕事用・個人用で2台のパソコン、2台のスマホ・携帯を使い分けるのは煩わしいし、仕事用を社外に持ち出せなければ、自宅や外出先ではメールやスケジュールのチェックすらできない。そのような非効率な状況を改善できる意味は大きい。
BYODには、セキュリティの仕組みや実際の導入方法など、いろいろと学ぶべき知識はあるが、それらはIT系の記事で多く解説されているので、ここでは割愛する。
日本の現状では、BYODの導入企業はまだ10%程度と少ないが、アメリカやドイツなど諸外国は50%近いところもある。
日本よりも在宅勤務者が多いなど、ワークスタイルの違いも背景にあると思うが、世の中の流れからして、導入企業が増えて行くのは間違いないだろう。
出典:総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトにかかわる調査研究」(平成25年)
BYODのeラーニングへの影響
BYODの導入のメリットとして、すき間時間を効率的に使えることによる生産性の向上などが挙げられている。
主に、メールやスケジュールの確認、資料作成など、従来なら社内のパソコンで行っていた作業を社外・自宅で行えることを想定していると思う。
研修など人材育成は、業務の生産性向上とは異なる影響が考えられるため、それ特有のメリット・デメリットを検討してみたい。
一般に企業が行う社員研修は、
・[eラーニング] パソコンなどで自己学習
・[集合研修] 受講者を一カ所に集めた講義やグループワーク
などの形式がある。
eラーニングは、比較的歴史も長く、大手企業であればある程度導入されていると思う。ただ受講者側の不満も多く、当初期待されたほど活用されていない。
その理由として、パソコンを使える環境がない、パソコン操作が苦手、なども挙げられる。社員の個人学習のスタイルであるため、よほど強制力がない限り、不便なものは敬遠されてしまう。
これらの課題については、BYODの導入により、「いつでもどこでも」「自分の使い慣れた機器で」が実現されるため、改善される可能性が高い。
産休・育休などで職場を離れている社員でも、学習を継続できる環境が整う。
BYODの集合研修への影響
集合研修は、社内の会議室、時には郊外の研修施設に受講者を集めて、講義やグループワークを行う、一般的にアナログスタイルの研修である。
日常業務や職場から隔離して行うことの意味は大きいし、参加者で議論したり共同作業したりすることは能力開発の重要な要素である。
この点において、BYODの導入は、実はデメリットが大きい。
携帯電話の持ち込みだけでも、研修中に仕事の電話が入ることがあったが、スマホなど常に持ち歩く端末で業務ができるとなると、研修時間中にメールの送受信したり、資料を読んだりする受講者が増えることが予想できる。
こればかりは、本人の自覚を促すとともに、講師や運営者側でコントロールするより他ない。
一方、集合研修の実施は、従来から以下のような点が問題とされている。
・半日から長ければ数日間、業務を離れて参加しなければならない
・全国、世界各地の拠点から1カ所に集めるための費用がかかる
・きっかけは与えられるが、1日学んだだけでは理解度も低いし、受講後しばらくすると忘れてしまう
業務の中断や出張費用は、人材育成のために必要なコストと割り切ることもできるが、可能ならばより効率的に実施するほうが望ましい。
3番目は、集合研修という形式によるものなので、より効果の上がる方法があれば、そのほうが望ましい。
もともと、このような課題を解決するために導入されたのがeラーニングであったが、自己学習という性質上、テーマによっては適しているが、すべての集合研修の効果を上回るものにはなり得ていない。
BYODによって集合研修を革新する
BYODは、集合研修とうまく組み合わせることによって、問題を軽減することができると考えている。
そのためには、まず、集合研修の実施方法を見直す必要がある。
ヒントは、最近話題になっているMOOCなどで注目されている「反転授業(Flipped Classroom)」。
研修の目的は、テーマにもよるが、一般には知識、考え方、スキルなどの修得である。
集合研修の効果を高めるにためには、そこで学んだ内容を反復トレーニングしたり、実践で応用したりすることが大切である。1回の研修を受講するのみでは困難だったが、IT機器を使ってオンラインで予習・復習(振り返り)をしたり、議論や質疑応答をしたりすれば、定着度は高まるであろう。
予習や事前課題を課せば、集合研修の場は、受け身の講義ではなく、ワークを中心にして、考えたり議論したりする時間を増やすことで、より質の高い研修の実施が可能になる。
結果的に、わざわざ1カ所に集まって学ぶ時間の圧縮にもつながり、費用面での効率化も期待できる。
研修の講師や運営事務局にとっては、各受講者の理解度や抱えている課題なども把握しやすくなる。
BYODは社会人の学びに適している
このようなことは、やろうと思えば、以前から、職場のパソコンを使ったり、紙ベースで行うことはできた。
ただ、紙だと事務処理が煩雑であったり利便性が悪かったりするし、職場ではパソコンがない人がいたり、あっても勤務時間中には学習しにくかったり、と実施が困難であった。
BYODでは、職場でも自宅でもどこでも、すき間時間を見つけて学習できる。
しかも、仕事でも個人でも日常的に使う機器なので、操作には慣れている。研修のためにわざわざ別の場所に行ったり、別の機器を使用する必要もない。自分の普段の生活の中で、身近にある、というのがポイントだ。
特に社会人の学びは、大学に通うとか、研修所に缶詰にするとか、かなりの強制力が働かないと、わざわざ時間や環境を確保して学び続けるのは難しい。
BYODは、日常的に学習するための環境を提供できる。
実際にどのように研修を運営して行くのかなど、検討課題はあると思うが、従来の研修の効率化し、効果を高める機会が到来したと考えて取り組んで行きたい。
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