前回は、プレッシャー管理のはじめの一歩として「良いマイナス感情」と「悪いマイナス感情」の違いについて解説しました。
今回は、「感情」はどのように生じるのか、そのメカニズムについて説明していきます。
感情は状況から誘発される?
一般に感情は、ある状況から直接的に誘発され、コントロールできないもの、と思われているかもしれません。
例えば、
・同僚の前で上司に叱られたため、強い怒りを覚えた
・会議でとんちんかんな発言をして笑われたため、落ち込んだ
・コミットした目標を達成できなかったため、罪悪感にかられた
などのケースを思い浮かべてみると、あたかも感情がプレッシャー状況から直接的に、かつ自動的にもたらされたように見えます。
しかし、感情には個人差があって、同じ状況においても、生じる感情に違いがあることを、私たちは経験的に知っています。
例えば、仕事でミスをしたとき、ある人は「自分に対して怒りや嫌悪感を抱く」かもしれません。ある人は、「次回はミスしないようにと頑張ろう」とするかもしれません。またある人は、「大したミスではない」と楽観的に考えるかもしれません。
また同一人物であっても、同じような状況において、毎回まったく同じ感情が生じるとは限りません。
これらのことからも、感情は必ずしも状況から直接的に生じるものではないということが分かります。同一状況下において、誘発される感情に違いが出るのは、そこに「思考」が介在しているからです。
この点について、「理性感情行動心理学」に沿って説明してみます。これは「ABC理論」と呼ばれる、心理過程に関する理論です。
ABC理論:感情誘発のメカニズム
ABC理論は、一言でいうと「ある状況から、感情や行動が誘発されるには、思考が介在している」ことを説明する理論です。
「ある状況=コトの発端となった出来事(Acting Event)」
「思考(Belief)」
「結果としての感情や行動(Consequence)」
の頭文字をとって、ABC理論と呼ばれています。
ABC理論の概要については、「【ABC理論】思考や感情をコントロールしプレッシャーに打ち勝とう 」で動画で解説していますので参考にしてください。
ここでは、あるケースを例にとってみていきましょう。
“チームリーダーのアオキさんは、納期が迫る中、同じミスを繰り返すメンバーのサトウさんに対して、大きな声で叱ってしまった”
この場合、
コトの発端となった出来事:
<A>「サトウさんが同じミスを繰り返した」という状況
結果としての行動:
<C>大きな声で叱ってしまった
という点は明白です。
そこで誘発された感情は「怒り」であったと推測できます。大声で叱るのは一種の攻撃です。攻撃というマイナス行動を誘発させる感情は、一般に「怒り」です。
では、<A>と<C>の間に介在していたと考えられる思考<B>はどのような内容だったのでしょうか?アオキさんは、はっきりとは意識していないのものの、「同じミスは何度も繰り返されてはならない」という考えであったと推測されます。
整理すると、
<A>状況:
「サトウさんが同じミスを繰り返した」
<B>思考:
「同じミスは何度も繰り返されてはならない」
<C>感情・行動:
「怒りの感情を抱き、大きな声でサトウさんを叱った」
という流れになります。
感情や行動を誘発する「思考」は、ほとんどの場合、意識にのぼりません。そのため、状況から直接的に感情や行動が誘発されているように見えますが、実際には思考が介在していることを説明するのが、ABC理論です。
今日の内容は、Kisobiコンテンツプロデューサー高杉尚孝(ヘンリー高杉)の著書
実践・プレッシャー管理のセオリー ~ビジネスパーソン必修 メンタル・タフネス強化のセルフ・コーチング術
をベースに作成しています。
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