新年度になり新しい環境で勉強を始める人も多いだろう。オンライン学習の分野でも、いよいよ4月14日からJMOOC(Japan Massive Open Online Courses 日本オープンオンライン教育推進協議会)での講義が配信開始される。
2013年度を振り返ると、MOOCという言葉が多くのメディアに登場し、認知され始めたのが印象的だった。MOOCは、米国の大学が中心ではあるが、日本でも東京大学や京都大学などが取組みを開始している。
MOOCは「衝撃/インパクト」や「革命」などの言葉とセットで語られることが多い。
米国の有名大学の講義を、誰でも、オンラインで、しかも無料で受けられるということは、考えてみればこれは凄いことである。英語の勉強兼ねて、米国のMOOCにチャレンジしてみた人もいるだろう。世界中の大学や教育者にとって、決して無視できる話ではない。
日本のMOOCは2つの方向へ
日本の大学の主な動きは、次の2つである。
1.米国の主要MOOCに参加
東京大学、京都大学、大阪大学がCoursera(コーセラ)やedXに参加し、英語での講義を提供開始。
この動きは、世界中に日本の大学の講義を配信する、というものである。日本の大学が自ら配信プラットフォームを持つのではなく、米国の主要大学が参加しているMOOCに講義提供者として参加する、という形をとっている。
2.JMOOC(日本版MOOCの協議会)を設立
日本の大学・企業が集まって、日本語の講義を提供準備中。
これは、日本の生徒、および日本語で学びたい海外の生徒向けに、日本の大学の講義を日本語で配信する、というものである。米国の主要MOOCには、各国のトップクラスの大学しか参加できないらしいし、英語での講義を運営するハードルも高い。一方で、オンライン教育の流れは、大学全体に影響があるため、日本全体で取り組みましょう!という話である。
とはいえ、現時点で実際に開始されている講義は、まだ少ない。
4月から、いくつかの講義が開始予定となっているので、主な大学の取組みを個別に見てみたい。
東京大学は多方面の取組み
第一弾はCoursera参加
日本の大学のMOOC参画で先陣を切ったのは、東大のCoursera参加だ。
(参照)オンライン教育・MOOCsの現状、課題、可能性 ー Courseraで東大の講義配信開始
昨年9月に、第一弾として、村山斉 カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長・特任教授による「ビッグバンからダークエネルギーまで(From the Big Bang to Dark Energy)」を開始し、その後、第二弾として、藤原帰一 大学院法学政治学研究科 教授による「戦争と平和の条件(Conditions of War and Peace)」を提供した。
東大のリリースによると、
世界150か国以上から8万人以上が登録し、約5400人が修了しました。2014年度は上記2講座に加え、経済学分野、情報学分野の新規2講座をコーセラで開講する予定です。(東京大学記者発表より 2014.2.18)
修了率が低いように見えるが、誰もが簡単に登録できるMOOCコースの修了率は数%と言われているので、一般的である。数字をみると分かるが、通常の大学の教室で行われる講義をはるかに越える人数が受講している。MOOCと言われる所以である。
edXでは、反転授業とグローバル連携講座
上で紹介したリリースは、東大がCourseraに続いて、edXにも参加することを発表するものだった。
edXはハーバード大学やMITが中心となり設立しているように、米国のMOOCは、主要大学がバックアップするプラットフォームである。そのため、それらの大学は、自分のプラットフォーム以外に講義を提供することは行いにくいが、東大のように自前で持たない大学は、世界中の主要MOOCに講義を提供することも可能なようである。
講義の提供は、少し先になりそうだが、Courseraとは異なる取組みをしていて興味深い。
ハーバード大学、MITと協力して近現代の日本に関する連携講座シリーズ「ビジュアライジング・ジャパン(Visualizing Japan)」を開発して、2014年秋より順次提供することになりました。
このシリーズは、東大、ハーバード大学、MITが近現代の日本に関する講座を開発するもので、ハーバード大学からはアンドルー・ゴードン(Andrew Gordon)教授、MITからはジョン・ダワー(John W. Dower)教授が講座を担当します。東大からは、副学長・大学院情報学環教授 吉見俊哉による「ビジュアライジング・ポストウォー・トーキョー Part 1・2(Visualizing Postwar Tokyo Part1・2)」の2講座を配信する予定です。
この講座の実施に関して、履修者の学習状況や成績の分布などの研究を進めるとともに、オンライン講座と対面授業を組み合わせる「反転授業 (Flipped Classroom)」についても試行的実践と評価を行います。
(東京大学記者発表より 2014.2.18)
ここで出てくる「反転授業 (Flipped Classroom)」や「反転学習」も、オンライン教育、MOOCの主要キーワードの1つである。
簡単に言えば、通常の講義中心の授業ではなく、講義はオンラインで事前学習し、対面授業では演習や課題などを中心に行う形式の授業のことである。
この講義を担当している東大・吉見副学長は、東大のMOOCへの取組みを積極的に推進しているお一人。自身の講義で、世界を舞台にMOOCを使った新しい講義のやり方にチャレンジする試みだ。まだ具体的にどんな形になるのか分からないが、楽しみである。
JMOOCで日本向けの講義もしっかり
海外向けだけでなく、JMOOCにも参加し、日本国内向けMOOCの取組みもしている。
タイミングとしては、edXでの講義配信よりも先になるが、NTTナレッジスクエアが運営する「gacco」(JMOOC公認プラットフォームの1つ)で、4月14日から、本郷和人教授の「日本中世の自由と平等」を配信開始する。
本郷教授による本講座のプレゼンテーションを聴く機会があった。それによると、この講座は、JMOOCの先陣を切ると共に、通常の無料コースに加え、有料の反転学習コースを用意するという、実験的な試みをしている。
また、講義内容も、暗記中心になりがちな日本史の授業ではなく、知的な冒険を楽しめるアクティブなものになるよう工夫しているとのこと。
日本語でのMOOCなので、歴史に興味がある人は、ぜひ試してみるとよいだろう。
以上、東京大学の取組みについてまとめてみた。
米国の2つのMOOCに講義を配信し、日本国内向けMOOCにも配信。しかも、単に大学の講義を録画して流すのではなく、MOOC向けに作り込まれた講義を提供している。
加えて、どちらかといえば動画講義中心だったMOOCの枠を越え、「反転学習」の試みを日米のMOOC上で行う準備をするなど、実に精力的な活動である。
まだ提供している講義数は少ないが、ある程度感触がつかめれば、一気に展開することもありえるのかもしれない。
京都大学もいよいよMOOC配信へ
日本の大学としてedXで初の講義提供
昨年5月に京大がedX参加を発表してから時間が経ったが、ようやく4月10日から、上杉志成教授の「Chemistry of Life(生命の化学)」の配信が開始される。
(参照)京大リリース「日本で最初にedXのコンソーシアムに参加しました。2013年5月21日」
コースの詳細を見ると、15週間と長めの講義ではあるが、週あたりに必要な学習時間は3時間程度と、比較的軽めなので、テーマに興味のある人は受講してみてはどうだろうか。
また、京都大学では、2005年から、KYOTO-U Open CourseWare を運営し、講義教材をインターネットで公開している。
今回のedX参加の件は、このOCWでも紹介されている。
私立大学その他のMOOCへの取組み
まず海外MOOCの取組みでは、大阪大学もedX参加を発表し、現在、準備中である。
(参照)阪大リリース「大阪大学、edX に参入します(MOOCとして大阪大学の教育コンテンツを全世界に配信!)」
早稲田大学や慶応義塾大学をはじめとする私立大学のMOOCの取組みは、JMOOCが中心である。
gaccoでは、
の生徒募集がはじまっている。
その他の大学も、順次講義配信を準備中である。
早稲田大学は、独自の取組みとして、OCWを一歩進めて、「Waseda Course Channel」でオンデマンド授業動画などを提供している。独自MOOCのようなサイトである。
使い勝手などは、まだ改善の余地が大きく、単に授業動画の配信だけであり、MOOCのように講義を提供するものではない。ただ、全学の講義をオンライン化していく取組みとしては興味深い。
以上、日本の大学のMOOCへの取組み状況をまとめてみた。
東京大学を除けば、トップクラスの大学でも、まだやっと取り組み始めたといったところである。
米国のMOOCは、参加大学数、講義数、利用者数ともに、かなり充実している。
ただ、講義数に関しては、CourseraやedXであっても、運営元のスタンフォード、ハーバード、MITなどは25個程度の講座を提供しているものの、他の大学は1桁のところも多い。
一方、MOOC先進国の米国では、サンノゼ州立大学のようにMOOCを活用しながら独自の取組みを行っていたり、ハーバードビジネススクールに見られるように、MOOCで講義を提供する以外に、各大学で独自のオンライン教育サービスを提供する動きも出てきている。
(参照)Harvard Business School Launches HBX
日本では、MOOCへの講義配信や、MOOCで学ぶ、というスタイルが話題になりつつあるが、米国ではMOOCは既に次の段階に入ったなどとも言われる。
日本の大学もオンライン教育の流れに取り残されないよう、積極的な取組みを期待したい。
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