大学レベルを中心としたMOOCの台頭に加え、小中学校レベルでも、ビジネスパーソンへ教育のデリバリー形式を根本的に変える可能性を秘めたできごとが進展している。
佐賀県武雄市が小中学生にタブレット端末を提供した上で、「反転授業」に取り組む方針を決めたのだ。(朝日新聞2013.9.24)
「反転授業」(Flipped Classroom, 直訳すれば「反転教室」)とは、従来教室で受けていた授業を、事前に自宅で動画にてパソコンやタブレットで学んでおき、その後、教室に集合した時には、応用課題を中心とする学習スタイルをいう。
教室で講義を受けた後に、自宅で宿題として応用課題に取り組むという今までの流れが「反転」している。
動画配信やタブレットなどデバイスの使い勝手を含む、ICT(情報通信技術)の進歩によって実現可能になった。
反転授業のメリットと課題
朝日新聞の記事は、「反転授業」のメリットと課題を次のようにまとめている。
【利点】
1)一人ひとりが自分のペースで学べる。わからない子は何度でも繰り返し勉強でき、理解の早い子は、早い再生速度で聞くことができる。
2)教室では、議論したり、応用課題に取り組んだりと受け身ではない活動が出来る。結果として、子供の学習時間は増える。
【課題】
1) 子供たちがどこまで意欲をもって予習に取り組むか。教材の魅力を高めることがカギを握る。
2) 低学年ほど、大人が映像を見るよう促す必要があり、保護者の協力が欠かせない。
3) 教師が「教え込む人」から「子供とともに考え、話し合う人」へという役割の変化にどこまでついていけるか。
企業研修はどう変わるのか
ビジネスパーソンの企業研修においても、これら「反転授業」の利点は共通である。
企業が業務効率向上を求められる中で、時間の短縮を含む研修効率の向上も急務だ。
研修内容をオンラインで事前に学習しておけば、コスト高の集合研修を減らしたり、または、その時間を意見交換や演習など、業務への応用力の強化に振り向けたりできる。
「リアルなインタラクション」という対面形式でなければ不可能なメリットを最大限に活かせる機会が到来したといえる。
企業研修においても、予習用のオンライン教材の魅力の向上は大きな課題だ。
紙媒体の資料を単に画面に映すだけでは眠くなる。コスト高にはなるが、教科書を配布する方がよっぽど見やすい。
確かに、動画の方が興味をそそるかもしれない。しかし、長時間にわたる講義をそのまま動画で配信するのも、視聴者側にはつらい。画面の見やすさ、説明の分かりやすさに加え、すきま時間を有効活用できるような動画の編集も大切な要素になる。
朝日新聞の記事には、「低学年ほど、大人が映像を見るよう保護者の協力が欠かせない」とある。
実は、大人も同じだ。「大人」が参加する企業研修であっても、予習に相当のばらつきの発生する場合が多い。
オンライン教材の場合、各人の進捗(必ずしも理解度と相関しているわけではないが)具合をモニターできるので、遅れている場合にははっぱをかけることはできる。いずれにしても、予習を担保するための事務局のフォローが重要である。
研修講師の役割も変化する
研修講師は、知識を「教え込む人」から、その応用や実際の問題の解決を「ともに考え、話し合う人」へという高い次元のファシリテーターへの役割変化を求められるようになる。講師自身が、知識の応用力を問われるのが「反転授業」の本質でもある。
ICTの発達は目覚ましい。そのメリットをフルに活用するには、それに見合う講師のスペック向上が肝心だろう。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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