6%対28%。
代表的な株式指数の採用企業を対象にしたROEの数値の比較だ。
6%が日本、28%が英米。世界平均は22%(日本経済新聞2013.4.3)。
新年度の日経新聞の連載「ROEを考える」にあった数字だ。
日本企業のROE(株主資本利益率:企業収益率の代表的な指標。純利益の株主資本に対する割合。自己資本利益率とも)は概して低い。以前から指摘されているよく知られた傾向だ。
資金を提供している株主からみれば、リターンが低くければ割にあわない。
従って、経済界では、「株主から見放されないように、日本企業はROEを上げないといけない」という指摘が多い。
株主に見放され株価が暴落すると企業としての存続が危うくなる。そうなれば経営陣だけの問題ではない。社員全員の生活に大きく影響してくる。
低いROEは、経営者、特に上場企業の経営者であれば周知のところであるはずだ。確かに世界的な水準からはほど遠い。
結果、日本企業は株主を軽視していると思われがちだ。
低いROEは日本企業の文化か?
2013年4月16日付の日経新聞に掲載された編集委員北沢千秋氏の「危機を忘れない経営」が印象的だ。
「『ROEの低さは日本企業の文化ともいえる』。ある経営学者の言葉だ。米欧の半分以下にとどまる低ROEは、経済合理性だけでは説明できないという。〜中略〜 低ROEが企業文化のようなものであれば変わるのは容易でない。企業に変革を促す強い動機と、経営者の強固な意志が必要である。」(日経新聞2013.4.16より)
と述べている。
ROEの低さが日本企業の文化であれば確かに変わるのは容易ではないように思える。
では、日本企業は株主を軽視していると思われ続けなければならないのであろうか。
そうならないように、やはり新聞記事のように「企業に変革を促す強い動機と、経営者の強固な意志が必要だ」と歯を食いしばって、上がらないROEを上げるよう頑張るしかないのだろうか。
低いROEはローリスク・ローリターンを好む企業文化から?
しかし、ここで留意しなければならないのは、ROEはあくまでもある一定のリスク上での収益率である点だ。ROEはその背景にあるリスクと比較して始めて意味のある数値となる。
例えば、資金提供者がとっているリスクが大きいのであれば、ROEも高くないと困るハイリスク・ハイリターンのパターン。
もし、リスクがさほど大きくないのであれば、ROEは低めでも悪くないローリスク・ローリターンのパターン。
ROEのみを見て、高い低い言ってみても意味がない。
もし、低ROEがローリスク・ローリターンというバランスの取れたリスク選好を意味し、かつそれが日本企業の「文化」であれば、それはそれとして理解できる。単に「低いから上げるべき」という議論は、自動的には成り立たない。
反対に、ローリスク・ローリターンというリスク選好が日本企業の文化であれば、尊重し、保全すべきという視点も充分にありえる。
低いROEの背景を説明する努力が日本企業の課題
もし、低いROEがローリスクを好むという日本企業の文化を反映しているならば、それを投資家にかれらの理解できる形で積極的に説明する努力が大切となる。
例えば、
「投資家の皆さん、当社のROEは、当社が、財務リスクと事業リスクの両方を抑えるという積極的な戦略を反映するものです」
と。
無論、より具体的な説明が求められる。
「当社は、財務レバレッジ的には、充実した株主資本と、機動的な資金調達手段を確保することにより、財務リスクをマネージしています。保有資産としては、外部に効率よく生産委託するものの、重要な生産設備を自前で有する事で、ノウハウの流出防止や高品質の維持を図っています。また、売上高に対する利益率としては、無謀なプライシングを避けるとともに、高品質製品をリーズナブルな水準で提供しています。結果、高いシェアを確保しています。この様に、当社のROEは、ローリスクに合致したリターンなのです」
と。
無論、この説明は実際にリスク・リターンのバランスがとれているという前提での話だ。ハイリスク・ローリターンでは困る。
重要なのは、問題だと言われ続けている低いROEが、事実、ローリスクを好む企業文化に根ざしているとするなら、無理に変えようとするよりも、その背景を投資家にしっかりと説明してゆくのも大切であろうという点だ。
以前、私がIRのコンサルタントをしていたころ、こんな事例があった。
航空機のエンジン等を作っている米国企業のROEが低いとアナリストや機関投資家からの指摘があった。
「ハイリスク・ハイリターンのはずのハイテク企業なのだから、ROEはもっと高くてしかるべき」
と。
これに対して、
「確かに、扱っている技術はハイテクかもしれない。しかし、ビジネスモデル自体は、ローリスクのメンテナンスビジネスである。故に、リスク・リターンのバランスはとれていると説明するとよい」
とアドバイスした。事実、儲けのほとんどは、安定したパーツの交換を含む安定した保守点検業務から上がっていたのだ。
低ROEの性質を分析した上で、投資家に理解できるファイナンスの言語を用いながら説明して行く努力も、多くの日本企業の課題といえるのではないか。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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