論理的思考の邪魔をする思考の歪みのひとつに、「過度の一般化」(over generalization)がある。ビジネスパーソンが気をつけたい、ロジカルシンキングを阻害する代表的な認知上のバイアスだ。
「あそこは絶対にアポの取れない会社だ。何度か商談のアポを取ろうとしたが、都合がつかないと断られた。」
「あの国の交渉相手は、必ず吹っかけてくる。以前の相手がそうだった。今回も絶対そうに違いない。」
このように、「過度の一般化」は、「以前そうだったから」との限定的な事例で、「どうせまたそうに違いない」と結論付ける。
そして、その結論をあたかも自然の摂理であるように絶対的に思い込む。「いつもそうなる」、「すべてそうだ」と。
過度の一般化は、いわば早まった法則化だ。
一般化そのものは悪くない
「一般化」を全面否定するつもりは毛頭ない。
それは人類の生存の上で多いに役立って来たはずだ。
「サーベルタイガーは危険な動物だ。絶対に近寄ってはならい。近寄って食べられてしまった仲間がいる」
「この種のキノコは毒キノコだ。絶対に食べてはならない。このキノコを食べた直後に仲間が死んだ」
これらは、現在でも有益な一般化であろう(もっとも、サーベルタイガーに遭遇することはないだろうが)。
歴史的に、人類は敵対的な環境でなんとか生き延びてきた。ひとは本能的に不確実性(uncertainty)を嫌うことを学んだようだ。不確実性は何かと危険だからだ。
それにひきかえ、一般化は確実性(certainty)をもたらしてくれる。
予測可能性(predictability)ももたらしてくれる。
要するに、一般化は不確実性にまつわる不安感を軽減してくれるのだ。
情報不足時代には「過度の一般化」も必要だった
確かに、情報不足の時代には、生存という観点では、「過度」の一般化も功を奏したのだろう。
「他部族は全て敵だ。絶対に仲良くしてはならない。以前他部族に侵略されたことがある。」
「赤いフルーツは全て毒だ。絶対に食べてはならない。以前赤いフルーツを食べた仲間が死んだ。」
と、とりあえず、悪い方へと過度に一般化しておけば、生存確率はあがるだろう。一般化が正しければ安全だし、仮に間違っていたとしても問題ない。
ただし、これは情報の極めて少ない、また、種の生存が常に脅かされている時代の話だ。
過度の一般化は、現代社会にはそぐわない
現代社会での過度の一般化はどうであろうか。
「あの取締役は今回のプレゼンに反対するに決まっている。以前、別件で反対した。プレゼンを見送ろう。」
「あの宗教の信者はみなテロリストだ。先のテロ行為の主犯があの宗教の信者だった。あの宗教の信者をみな弾圧しろ。」
過度の一般化は、中間を排除する、全か無か、白か黒か的な思考につながりやすい。結果、まつわる行動も極端になることが多い。過度の一般化によって、成功のチャンスを捨ててしまったり、平和的な共存を難しくしてしまったりする。
現実は概ねグラデーションでできている。どれくらいグレーかを判断できる情報も以前と比較すれば、入手しやすくなった。
しっかりとした情報を元に、物事を確率的に判断する習慣をつけておくことが大切だ。
くれぐれも、安易に「あの子、大事な時には必ず転ぶ」などと、過度の一般化をしないよう心掛けたい。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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<参考書籍>
論理表現力ーロジカル・シンキング&ライティング(高杉尚孝著)
- 職場のコミュニケーションをよくする「ストレス軽減思考法」 - 2015年6月13日
- 【英語の丁寧表現】状況に応じて使い分けてみよう! - 2014年8月7日
- 英語の上達法【レシテーション】(暗唱法) - 2014年7月8日