先週、条件付きではあるものの、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディア上で、企業が重要な情報を開示することを米証券取引委員会(SEC)が認める方針を明らかにした。
昨年、米オンライン動画配信・DVDレンタル大手ネットフリックスのCEOがフェイスブックに自社の情報を投稿し、それをSECが問題視したこと端を発した論争に、1つの方向性が示された形だ。
(参照:JBPress)
ソーシャルメディアが公共的な伝達媒体として地位を得る方向に
ソーシャルメディア側からすれば、投資家向け情報開示における正当なメディアであるとのお墨付きをSECから得られたわけであるから大きなプラスである。
投資家としても、情報収集手段に、普段自分が利用していて、かつリアルタイム性の高いソーシャルメディアが加わることは便利だ。
日本でも、速度の違いはあるとしても、ソーシャルメディアが公共的な伝達媒体として地位を得る方向に動いていくであろう。
他方、情報発信側である企業にとっては、さらなる宿題をもらったことに
情報発信の媒体が増えれば、その媒体を管理する負担も必然的に増える。しかも、ソーシャルは伝統的な媒体とは異なる高い双方向性をもつ。
従来の、一方向的な情報発信や、個別対応を内密に行う事の出来ない媒体だ。多くの日系企業は、社内外の両面にてソーシャルメディアの利用を始めたばかりでもある。大きな宿題をもらったといえる。
IRの根本課題は、コミュニケーションの内容そのもの
SECにまつわるニュースで言えば、媒体の特異性からくる課題に加えて、もっと根本的なところに、多くの日系企業の持つ、投資家とのコミュニケーションつまり、IR (Investor Relations)の内容そのものの課題がある。
とりわけ、今後の株価上昇を支える上で重要となる個人投資家との対話には大きな改善の余地がある。
現状の投資家向けIRの柱のひとつは、経営陣による会社の説明会である。特定の金融機関、新聞社、アナリストの協会などが主催している。
経営陣による、業績の発表や見通しが中心となるのだが、概ねバラ色の将来を描く内容となる。もちろん、暗い話しをしたくないという心情は理解できる。だが、そこに至る道筋がはっきりしていない場合がとても多い。
なかでも気になるのは、バラ色の将来に到達する上で、財務サイドでの納得のいく説明がとても少ない点だ。
P/L(損益計算書)上でのつじつまはあっているとしても、事業をサポートするファイナンス面、とりわけ、キャッシュの調達の裏付けや、使い道の説明が不明瞭である場合が多い。
資本構成に関する説明も極めてまれだ。財務リスクに関する言及もほとんどない。
質問しても、満足な回答を得られない場合が多い。
追加の質問をすると、司会者に遮られる。
ソーシャルメディアでは、従来のIRのやり方は通用しない
個人投資家のレベルを低くみているように思えてならない。
バブル経済崩壊やリーマンショックを経て、個人投資家の民度は確実に上がっているはずだ。
想像して頂きたい。このやりとりが透明性の高いソーシャルメディア上で起きた場合を。
確かに、セミナー会場であれば、限られた参加者のみが知るだけだ。司会者が質問者を無視することもできるかもしれない。
しかし、ソーシャルメディアはまったく別物だ。納得感をもてない回答を不特定多数が知る事になる。ましてや質問者を無視すれば大変なことになり得る。
企業はソーシャルメディアの台頭をチャンスと捉えることができるか?
伝達媒体が増えてもコミュニケーションの質が自動的に向上する訳ではない。
反対に、コミュニケーションのチャネルが増えることはミスコミュニケーションのリスクを増大させることになりかねない。
媒体自体を無視できるのであれば、そうしたいという心理が働くだろう。確かに「SEC」は、利用を認めただけである。義務化あるいは推奨している訳ではない。
しかし、投資家側のより効率的な情報収集ニーズ、そして、投資家とよりコミュニケーションを深めたいと考える先進企業によるソーシャル活用の広がりを想定すれば、無視するのは困難だろう。
ソーシャルメディア上での発信をチャンスであるとプラス材料と捉え、今回のSEC方針を歓迎する米国企業は当然あるはずだ。日系企業でも一部の先駆的企業は歓迎するかもしれない。
企業はソーシャルメディアの台頭をチャンスと捉えることができるだろうか?
多くに、媒体と内容の両面での、理解と改善が求められている。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
高杉事務所へのお問い合わせはtakasugisoken.comへ
<参考記事>
デジタルストラテジストの熊村剛輔氏が、日経BP社ITProの連載で、同テーマの記事を書かれていたので、参考記事としてご紹介します。
- 職場のコミュニケーションをよくする「ストレス軽減思考法」 - 2015年6月13日
- 【英語の丁寧表現】状況に応じて使い分けてみよう! - 2014年8月7日
- 英語の上達法【レシテーション】(暗唱法) - 2014年7月8日