「リベンジ」という言葉をメディアで目にすることが多い。
英和辞典で意味を調べてみると、
revenge <動詞>
…に復讐する(個人的な憎しみ、悪意を動機とした仕返しをする)。
(被害者などの)あだをとる,かたきを討つ。
(加害・侮辱などに)仕返しをする。
(出典:Weblio/研究社 新英和中辞典)
と書かれている。
スポーツ選手の言葉としての「リベンジ」
今回、目に留まったのは、卓球の石川佳純選手だった。
「2年前のドルトムント大会は、準々決勝で私が5番手で韓国選手に逆転負け、メダルを逃しました。だから、2年前より強くなった自分で、リベンジしたい」
(朝日新聞2014年4月27日朝刊)
4月9日の記者会見でも石川選手は、
「ドルトムントでの悔しさを東京でリベンジできるようにがんばりたい」
と言っている。
無論、卓球の石川佳純選手だけではない。
「去年の最終日にスコアを落として悔しい思いをしているのでそこはリベンジできた。」(共同)
こちらは、同じ石川でも、4月21日、ゴルフの石川遼選手。米国でのトーナメント後のコメントだ。
メディアも「リベンジ」を多用する。
「『去年は年下だったけど、今年は年上になるんで、上位3人に入って世界に行きたい』とリベンジを誓っていた。」
(日刊スポーツ2014年3月31日)
アマゴルフのPGM世界ジュニア選手権日本代表選抜大会にて、 平塚新夢(あむ)選手が2年連続でこのカテゴリーの東北予選トップで決勝大会に進んだ際のインタビューだ。本人は、「リベンジ」などとは言っていない。
さらに、メディアは「リベンジ」を選手に刷り込む。
2軍での再調整が決まった楽天の松井裕樹投手に対してのメディアの接し方がよい例だ。
「松井裕もリベンジを誓った。この日は寮内でジョギングとストレッチなどを行い、2軍合流となる25日に備えた。報道陣から『リベンジしたいか』と問われると『それはそうですよ。明日から、また(頑張ります)』。混乱した頭をリセットし、再び1軍のマウンドを目指す。」
(スポーツ報知2014年4月25日)
「リベンジ」と「revenge」の違い
これらの「リベンジ」は、どう考えてみても、「個人的な憎しみ・悪意を動機とした仕返しをする」という、ドロドロとした憎しみあらわな復讐行為とは考えづらい。
内容としては、「再挑戦する」、悪くて「雪辱する」くらいの意味だろう。
ウィキペディアによると、この「リベンジ」を広めたのは、西武ライオンズ時代の松坂大輔選手だそうだ。
K-1好きでもあった松坂は1999年4月21日の対ロッテ戦では黒木知宏と投げ合い、0-2で敗北したが、その後に「リベンジします」と宣言した松坂は4月27日の対ロッテ戦で再び黒木と投げ合い、1-0でプロ初完封を記録し見事にリベンジを果たした。松坂が「リベンジ」を使った時期は、まだリベンジの意味を知らない日本人が多かったと思われるが、松坂が用語としての「リベンジ」を広く一般に認識させたことから、1999年の新語・流行語大賞の受賞者に選ばれた。(ウィキペディア)
確かに、カタカナ語としての「リベンジ」には、revengeのもつ「個人的な憎しみ・悪意を動機とした仕返しをする」ニュアンスはないのだろう。スポーツ選手やメディアが憎悪に煮えたぎっているとは思えない。
ただ、revengeの方には、相当重いニュアンスのあることを充分承知しておくのも大切だ。でないと思わぬ誤解を生む可能性がある。
少なくとも、コメントが世界的に発信されるかもしれない有名なスポーツ選手などにおかれては、気をつけるに越した事はない。
そういえば、以前、尖閣諸島問題に関して、日本の首相が、
「クールな対応をすることが大事だ」と中国側に求めた。
「冷静な」では何かまずかったのだろうか?
Coolには、unfriendly、unresponsive (非友好な、無反応な)という意味も実はある。
(参照:<cool> The Free Dictionaly)
「クール」の方が「クール」(格好良い)とでもお考えになったのだろうか?
もし、どうしてもカタカナ語を使うのであれば、本来の意味を良く知った上で使うようにしたい。
by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)
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