「ビジネススクールで身につける会計力と戦略思考力 ビジネスモデル編」(日経ビジネス人文庫)を出版された大津広一さんへのインタビュー後編です。
大津さんは、会計・財務分野の専門家として「企業価値を創造する会計指標入門」をはじめ多くの著書があり、企業研修やアカデミーヒルズ、みずほ総研、日経ビジネススクール等で講師としてもご活躍されています。
<聞き手:浦部洋一>
大津広一
- 株式会社オオツ・インターナショナル代表
米国公認会計士、経営コンサルタント
早稲田大学大学院商学研究科ビジネススクール講師 - (詳しいプロフィールはこちら)
(前編はこちら)
──大津さんの他の書籍と比べた本書の特徴は何でしょうか?
これが9冊目になりますが、私の本は、全てリアルのケースをベースに書いているという点では一緒です。
ただ今回は、20社、30業界に触れていて一番数が多い。
また、1冊の中で、エントリーからアドバンスの部分まで、かなりステップアップがあります。
私の本をいくつか読んだことのある人なら、ああ、ここはあの本の要素とか、ベーシックからアドバンスまで入っているな〜と感じてもらえると思います。全く初めての人も、エッセンスを1冊で感じてもらえると思います。
この本は、前著「ビジネススクールで身につける会計力と戦略思考力<新版> 」の姉妹本として出しています。
前著では、最初からPLやBSの構造をしっかりと説明していますが、今回は決算書全体のものは、最後のほうに1社、三菱食品のケースを除けば出て来ません。必要な数字、注目したい数字のみをピックアップしている点が、前著と異なります。
他の執筆書籍では、経営指標ROE、ROAなどのテーマで、アドバンスにフォーカスして書いていたりします。
今回のように、ユニクロとしまむらの比較など、かなりエントリーレベルから入って、最後はROICのようなアドバンスの経営指標まで、1冊の中でレベルがステップアップしていくというのは、私の本の中では無かったかもしれませんね。
──入門書といったところでしょうか?
そうですね。そう思います。
いきなり決算書が出て来ないので、会計アレルギーの強い人にも、とっつきやすいと思います。個別の売上や在庫などの話は出てきても、まるまるBS、PLはほとんどないですね。
今回は、「会計」というよりは「ビジネス」の切り口から入っています。
とはいえ、他のビジネスモデルの本と比べると、「会計」という冠があるので、数字的な要素が多く入っています。
この本を読んで、もっと体系的に会計を学んでみたいという人は、ぜひ前著を手に取ってみてださい。
既に前著を読まれた方は、ケースが被っている訳ではないので、復習を兼ねて見ていただく、という使い方もできます。
──本書はどのように活用するとよいですか?
会計への嫌悪感、苦手意識、食わず嫌いをぜひ払拭してください。
「会計の身近さや楽しさが分かる!」
「数字が読めると、数字からこんなことが分かるのか!」
を実感して欲しい、というのが著者としての1番の望みです。
次のステップでは、「自分のビジネスを作っていく。改善していく。」です。
日々の活動と数字を一緒に考えていくことで、業務に活かして欲しいですね。
例えば、与えられた目標を達成するために、原価、販売コスト、間接部門をどういう配分で行くべきか、のように、時には数字から入ってみたり。
新たな事業や戦略を考えるときに、今以上に数字を意識して考えられるスキルに結びつけてほしいと思います。
「自社の分析をしましょう!」ということが、最後のステージ9に入れてあります。
ここで学んだことを、すぐに自社の決算書に当てはめて考察してみましょう、という形でも活用できます。
──小売業のケースが中心ですが、それ以外の業界の人にはあまり参考になりませんか?例えば、IT業界のことはあまり出て来ないですが…
そんなことはありません。
ITでも物販をやるのであれば、Amazonや楽天、スタートトゥデイの話も出て来ますので、同じネット販売でもこう違うのかという点が参考になります。
この本は、全ての業界やビジネスモデルを学ぼうという本ではありません。
あくまでビジネスモデルと数字の関係を主体的に考えるためのきっかけにしてほしい、という本です。
イオンモールやスタートトゥデイなどは、小売業に見えて、基本的に場所貸し業です。
それらを見て自分のビジネスにも当てはまるものを考えるとか… ここまでできるとアドバンスかもしれませんが。
前回、この本では、SPAという業態に注目しているというお話をしました。
アップルとホンハイ(鴻海精密工業)の話も出てきます。
アップルもSPAだと思っています。
技術がコモディティ化してしまった…
基本的に、どんな業界でも関係ある話ですし、逆に関係ないよ、と思った瞬間に誰かにやられてしまいます。
例えば、ソニーだって、こんなことが起きるとは思わなかっただろうし、百貨店だってこんな時代がくるとは思わなかったことでしょう。いろんな業界で、浸食が起きているのは事実でしょうね。
今読んでいることが、自分のビジネスにはどう関係するんだろう、ということを常に考えながら読んで欲しいですね。
──他のビジネスモデル関連書籍では、アップルのiTunesの仕掛けの話などよく登場しますが、本書には、そのようなビジネスの仕組みはあまり出てきません。それよりは、もうけの構造をきちんと押さえておきましょう、という話でしょうか?
そうですね。
例えば、架空の話で「機器はこれだけ利益を犠牲にして、iTunesのランニングで儲けるんです、架空の数字を使ってこんな決算です」というのが、ビジネスモデルをテーマにした本のもう1つのアプローチですね。
仕組みの理解という点では構わないのですが、実際どうなのかは、アップルにしろ、ジレットにしろ具体的には分かりようがありません。
そう言う意味では、世の中に対する1つの提言でもあります。
新しいモデルで稼ぐのはどんな業界でもあり得る。
本書の途中でも書いていますが、もし読者の皆さんが、新しいSPAを作ってくれたら、私は喜んでいきますよ、と。
あとは、カルビーのような伝統的な企業でさえ、たった1人の経営者で革新が起きるという話。
SPAの波が来る中で、コンビニに対する対抗策として、メーカーとしてこんな対抗策があるんだよ、ということを示した例、として入れています。SPAはユニクロだけではありません。
はじめにも言いましたが、会計は後回しという風潮が強い気がします。
ただ、ビジネスモデルは数字がなければダメですよね。
ビジネスモデル=数字なんです。
──最後に読者の皆さんにひと言お願いします。
肩肘張らずに手に取ってみてください。
クイズ形式なので読みやすいと思います。
また、クイズ形式なのは、考えるということが大事、と思うからです。
聞いただけのことは、すぐ忘れてしまうので。
ぜひ楽しんで読んでください。
<大津広一氏 のセミナー>
1.「実在する18社の決算書から学ぶ競争に勝つビジネスモデル」
新著『ビジネススクールで身につける 会計力と戦略思考力 ビジネスモデル編』の刊行記念セミナー
2014年11月12日(水)開催
2.「ケースで学ぶ戦略的な経営指標(KPI)の選び方」
ROE、ROA、フリー・キャッシュ・フロー(FCF)などの経営指標。
言葉の意味は知っていても、それらを経営目標に掲げる意義や、企業戦略・経営計画における活用法など、きちんと理解している人は意外と少ないのではないでしょうか?
本セミナーでは、代表的な9つの経営指標(KPI)について徹底解説し、演習を通じて実際の戦略・計画立案での使い方を指導します。
2014年11月15日(土)開催
- ビジネスモデルが会計の数字を決める(後編)|大津広一氏インタビュー - 2014年11月4日
- ビジネスモデルが会計の数字を決める(前編)|大津広一氏インタビュー - 2014年10月30日
- ビジネスリーダーになるには会計・財務スキルは必須 - 2014年9月12日