今回は、先日「ビジネススクールで身につける会計力と戦略思考力 ビジネスモデル編」(日経ビジネス人文庫)を出版されたオオツ・インターナショナル代表の大津広一さんに、新著についてお話を伺いました。
大津さんは、会計・財務分野の専門家として「企業価値を創造する会計指標入門」をはじめ多くの著書があり、企業研修やアカデミーヒルズ、みずほ総研、日経ビジネススクール等で講師としてもご活躍されています。
<聞き手:浦部洋一>
大津広一
- 株式会社オオツ・インターナショナル代表
米国公認会計士、経営コンサルタント
早稲田大学大学院商学研究科ビジネススクール講師 - (詳しいプロフィールはこちら)
──大津さんは会計・財務がご専門ですが、なぜ「ビジネスモデル」を題材に書こうと思ったのですか?
普段、会計・財務の講師をしていて感じることが多いのですが、「会計=専門家の領域」、「会計はあまりビジネスの役に立たない」という考え方が根強い気がします。
昔に比べれば減っているとは思いますが、まだまだそう信じている方が多いようです。
会計はルールも多いし言葉も多い。それが大きな障壁となって、近寄りたくない世界だな…
どうしてもそういう先入観があって終わってしまうことが多いのではないでしょうか。
そうじゃないんです。
あくまで「会計と会社の戦略」、「会計とビジネス」。
ビジネスというのは外部環境も大事だし、外部環境の中での会社の戦略があって、はじめて会計数字ができあがるわけです。
ただ、「会計」という言葉から入ってしまうと、その瞬間にアレルギーを起こしたり、食わず嫌いになっちゃったりする人が多いんです。
それで、「ここはビジネスなんですよ」「ビジネスがあっての会計なんですよ」ということをより前面に出すために、「ビジネスモデル」というタイトルで本を書こうと思いました。
また、企業研修を行う際に、その会社をある程度、自分がリサーチしてから臨みます。数字だけでなく、いろんな側面で。場合によっては、その会社が意識している競合とクライアント企業を比較したりとか。
幸いそういう機会が多いので、同じ業界でもビジネスモデルによって数字が違う、ということが分かってきました。
それを研修の中で伝えることも多いので、一度体系的にまとめたいな、という意味合いもありました。
──今までに出版された本は会計指標や経営分析など少し難しいタイトルが多いですね。今回は位置づけが違うのですか?
これまで僕が書いてきた本も、基本的には今回と同じスタンスで書いてきたので、それほど大きな転換があったかというとそうではありません。
あくまでビジネスがあっての会計ということをより分かりやすくタイトルにしました。
そういう意味で、ビジネスモデル(=会社のビジネスの仕組み)が、会計の数字を決めるんですよ、こういう仕組みよってこういう数字になってます、ということを伝えたくてビジネスモデル編と名付けました。
ただ、「ビジネスモデル」と言っても、数多くのビジネスモデルを紹介する本ではありません。
全体のテーマとして、今回はSPA(製造小売業)というものを、小売業から見たり、製造業から見たり、一貫したストーリーとして採り上げています。
伝えたいことは、「ビジネスモデルがあっての会計の数字」だし、逆に言えば、どんなに素晴らしいビジネスモデルであっても、お金がなければそれは成立しない。
そのためには、どれだけ、どんな費用を使わなくてはならないとか、運転資金や借入など資金調達はどうするのか。それがなければ、ビジネスモデルは単なる絵に描いた餅になってしまいます。
その重要性の気づきを与えられれば、と思っています。
他のビジネスモデルの本を読んだときに、そこに出てくる企業の決算書を見るためのコツを学んで欲しい、というような本です。
──どういった構成の本ですか?
前半は、売上などの数字の2社比較、3社比較表を見て、どの会社かを当ててもらう、というクイズ形式にしています。その回答を読者とインタラクティブに一緒に考えながら読み進めていく形です。
会社の数字を決めるのは、業界の外部環境や業界特性だけではなくて、その会社のビジネスモデルが、数字を決定するんです。
そのことを理解してもらうために、なるべく似たような会社を比較して見ています。たとえば、ユニクロとしまむら。似たように見えますが、全く数字が違います。同じイオングループのイオンリテールとイオンモールは、同じ業態に見えてやっている事が違うので数字が違うとか。両方とも優良企業なのに、なぜ数字が違うかというと、ビジネスモデルが違うから… ということを伝えています。
後半は、それを製造業、サービス業に拡張します。カルビーやJR東日本のように、なるべくみんなが身近に感じる分かりやすいケースを使っています。
その中でSPAというものを一貫して、カルビーでもJRでも触れています。
──SPAが大きなキーワードなんですね?
ビジネスモデルの本を見ると、たくさんのモデルの中の1つがSPAなんですが、この本は、ビジネスモデルの種類を学ぶのが目的ではないので、SPAにフォーカスしています。
ビジネスモデルが数字を決める、あるいは、数字ができなければどんなビジネスモデルも成立し得ない、というメッセージを伝えたいと思っています。
今、SPAというものが、どんな業界にも起きてきているので、それを本書に取り入れています。
SPAについて一貫したストーリー性をもって、ステージごとにレベルアップしてもらうような流れにしています。
──どういう人に読んでもらいたいですか?
広くビジネスパーソン全般ですね。
経理・財務の人にも読んで欲しいですし、営業や製造・技術開発など、どちらかと言えば会計に苦手意識を持っているような人にこそ、ぜひ読んでもらいたいです。
皆さんがやっている営業や製造が、数字になっているんですよ、ということをこの本を通じて納得して欲しい。
年次という意味でも、若い方から、20年30年のキャリアの人まで幅広く。
ベテランの人でも会計を学ばずに来ちゃったという人も多いですから。皆さんが日々責任もってやっている活動が数字になっているだけですよ。ベテラン選手であれば、ビジネスを理解してるはずですから、数字もそれほど抵抗感なく結びつけられるはずです。
また、最後にアドバンス編として「4つのインプット」を入れてますので、かなり会計や戦略について分かってますよ〜という人にとっても有益ではないかと思っています。
(後編につづく)
<大津広一氏 のセミナー>
1.「実在する18社の決算書から学ぶ競争に勝つビジネスモデル」
新著『ビジネススクールで身につける 会計力と戦略思考力 ビジネスモデル編』の刊行記念セミナー
2014年11月12日(水)開催
2.「ケースで学ぶ戦略的な経営指標(KPI)の選び方」
ROE、ROA、フリー・キャッシュ・フロー(FCF)などの経営指標。
言葉の意味は知っていても、それらを経営目標に掲げる意義や、企業戦略・経営計画における活用法など、きちんと理解している人は意外と少ないのではないでしょうか?
本セミナーでは、代表的な9つの経営指標(KPI)について徹底解説し、演習を通じて実際の戦略・計画立案での使い方を指導します。
2014年11月15日(土)開催
- ビジネスモデルが会計の数字を決める(後編)|大津広一氏インタビュー - 2014年11月4日
- ビジネスモデルが会計の数字を決める(前編)|大津広一氏インタビュー - 2014年10月30日
- ビジネスリーダーになるには会計・財務スキルは必須 - 2014年9月12日